不妊治療は4重苦!―不妊治療の公的保険適用で何が変わるのか!

菅政権で、2022年4月から、不妊治療も公的医療保険を適用される方針が固まりました。不妊治療を経験した者として、とても嬉しく思いました。不妊治療がもたらす困難・苦痛は様々ですが、高額な医療費は、世帯の経済を圧迫し、種々の治療は母体への肉体的負担となる他、金銭の投資!体への負担がかかっているにも関わらず、こうした努力が常に望む結果に結びつかないために、精神的にも負担になります。そして、仕事を持つ人であれば、治療との両立に苦しみます。だから、不妊治療はしない方がいい!という結論にはもちろんなりませんが、それらの「苦」が子どもを授かりたいカップルが不妊治療を始めるのを躊躇させてしまうのではないかと思います。そのため、不妊治療に対して、公的保険適用がされることに希望が高まり、嬉しいと感じるのは私だけではないはずです。

不妊治療の4重苦
不妊治療の4重苦

不妊治療とは?

不妊治療とは、妊娠・出産を希望しているにも関わらず一定期間、妊娠の兆候がないカップルに対して行われる治療です。治療と一口にいっても、方法はいろいろあり、ステップを踏み行われ①タイミング療法、②人工授精、③高度生殖補助医療(体外受精あるいは顕微授精)に進みます。
タイミング療法とは、排卵日を予測して夫婦生活のタイミングを指導する方法です。これが、まず一番初めに試されます。②の人工授精は、排卵のタイミングに合わせて精子を人工的に子宮内に送り込み妊娠させる方法です。③の高度生殖補助医療とは、卵巣から卵子を取り出し、精子と体外で受精させ、受精卵を子宮に戻す方法です。(顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE)という方法もあります※)①~②をある一定期間試し、それでも妊娠に至らない場合は、③の方法にステップアップするのが一般的です。もちろん、夫婦の希望や年齢等も加味されるため、①や②を経ずに③ということも十分あり得ます。

※顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE):手術用顕微鏡を用いて精巣内より精子を回収する方法。

不妊治療の3重苦!

この不妊治療、楽な道のりではありません。いろいろな難関がありますが、大きくは、お金、体、精神的な問題にかかわってきます。

苦痛1:高額な治療費

助成金もあるけど・・・
不妊治療の最初の関門が、医療費です。もちろん、不妊治療のすべてが自己負担というわけではなく、上記の①と②の一部が保険適用であったり、助成金等へのアクセスも可能です。助成金の詳細は、厚生労働省のウェブサイトにありますが、体外受精と顕微授精が対象治療法となり、対象者は、治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満の夫婦です。助成額は、1回15万円(初回のみ30万)で、生涯通算6回(40歳以上43歳未満は3回)です。

1回15万円は、大きな助けです。しかし、高度生殖補助医療にかかる費用は、NIPT JAPANによると、38万円(2017年)と言われています。しかし、体外受精1回で子どもを授かることができるのかは、わからず、数回試した・・・というカップルの話を聞きます。すると、費用は、すでに100万円近くに・・・この金額を即決して支払える世帯は多くないと思います。
人工授精などは、体外受精や顕微授精と比較して、安価であるものの、1回につき3万円~かかります。

苦痛2:母体への負担

痛いんですが・・・
不妊治療の検査では、自然妊娠可能か、一般不妊治療可能かを判断するうえで大切です。女性と男性の検査では、圧倒的に女性の方の検査項目が多いです。いくつか検査があります。
女性は、内分泌検査(ホルモン値を測定するための血液検査)、卵管疎通性検査(卵管が詰まっていたり、狭くなっていないかを確認)、超音波による子宮の検査・・・男性は、精子の運動率の検査等です。
卵管疎通性検査では、子宮内に造影剤を注入し、レントゲン撮影する方法、あるいは専用の器具を用いて卵管に空気と水を通しながら超音波で確認します。病院によっては、麻酔をするのですが、私の行った病院では、麻酔はなく、結構痛かったです。また、治療が始まると、採卵のタイミングを計るために、頻繁に血液検査が行われます(経験上、一度のサイクルで、約5回ほどの採血がおこなわれたと記憶しています)。

薬の副作用
②の人工授精、③の体外受精、および顕微授精では、薬品が使用されます。人工授精では、排卵誘発剤ー下垂体から分泌されるゴナドトロピンと同成分を含むホルモン製剤(注射薬)―が使用されます。この卵胞発育をうながす治療です。
副作用として、OHSS(卵巣腫大、腹部不快感、腹部膨満感、吐き気、嘔吐、下痢、腹水、胸水、血液濃縮、血栓塞栓症)などが挙げられます。結構怖い副作用です。私自身は、幸い危篤な副作用はありませんでしたが、注射薬使用期間は、腹部不快感、腹部膨満感、吐き気がありました。

自己注射でできるアザ
日本の排卵誘発剤は、内服するタイプの薬もあるようですが、オランダでは、注射が主流でした。注射は、特定の期間、決まった時間に毎日行わねばなりません。また、人工授精では、注射は一日主に1回ですが、高度生殖補助医療においては、ある一定の期間は、2回異なるタイプの注射を行います。
毎日のことなので、これゆえに通院するということはせず、事前に看護師の指導を受けて、自分で注射をします。ものすごい痛いというわけではありませんが、数回に一度、打ち方が悪いのか、痛いと感じる時があります。こういう経験をすると、翌日の注射が恐怖だったりします。そして、毎日繰り返して、同じ場所(腹部、おへその周り)に注射するので、アザのようなものができます。

苦痛3:精神的苦痛

男女間のカップルで生じる温度差
色々な困難がある不妊治療ですが、カップルが一致団結してこそ、乗り越えられると思います。しかし、カップルで温度差が生じることしばしです。男性側の生殖に関する意識は一般的にそれほど高くはなく、情報を積極的収集しようと思うこともなかなかありません。生理が来ることで、妊娠を体感する女性とそうではない男性との間に距離ができることはただあります。また、治療においては、女性側の検査項目の多さ、実際に治療が施されるのは女性側であることから、精神的、肉体的困難があることを男性は体感しないままに、妊活がすすんでいくことになります。
女性が治療の故の体不調、精神的な落ち込みがあっても、それに対して寄り添うことができない男性も多く、不妊治療で夫婦の距離が遠くなるということもただあります。

努力が常に報われるわけではない
高額な医療費を支払い、治療の苦痛を乗り越え、待つこと約2週間・・・生理が来てがっかり、あるいは、妊娠検査薬が陰性・・・ということも。どんなに頑張っても、常に結果がついてくるわけではないのが、不妊治療です。
私は、人工授精を何回かチャレンジしましたが、生理が来るたびに、鬱々とした気持ちになりました。というか、あの時、私はおそらく鬱だったのではないかと思います。病院の先生に、精神科を紹介しようかと言われたほどだったので・・・
友人は、体外受精の末に子どもを授かったようですが、流産してしまい、それ以降治療からは遠ざかったといいます。(実は、それから3年後、治療ではなく自然妊娠しました・・・友人曰く、不妊治療がストレスだったのかも(笑)と言っていましたが、本当にそうだと思います。)

治療期間は、気が付くと緊張気味だったと思います。薬も、毎日同じ時間に投与しないといけないし、一日も忘れちゃいけない・・・特に注射系は要冷蔵なので、治療期間の夜はおのずと外出を控えることに・・・。仕方がないと思いつつ、いろいろ制約があると実感する瞬間でした。

苦痛4:社会的なプレッシャーからの苦痛

仕事との両立の難しさ
その他、何回も通院しないといけないため、仕事をしている人は、通院のための休暇を取得したりといろいろと調整しなければなりません。また、印象論で恐縮ですが、不妊治療を行っている人の数が多いことは、統計やそれらを行うクリニックの数の多さからも推測できるものの、不妊治療を行っているということは、いらぬ憶測、噂話等の心配等の外野の目や反応、プレッシャーなどからなかなか言いづらいことだと思います。

体にかかる負担を考えると、不妊治療そのものでも大変なことですが、ハードルが多すぎるのが現状だと思います。

不妊治療の公的保険適用がもたらすメリットとは

不妊治療の公的保険適用
不妊治療の公的保険適用は希望か・・・


経済的負担軽減

2021年9月現在の厚生労働省のウェブサイトには、現行制度の助成金と、法律施行後の拡充案の比較が掲載されています。前の制度では、夫婦合算の所得が730万円のものしか、助成を受けることができませんでしたが、所得制限は撤廃され、助成額は、1回15万円だったものが、30万円となります。助成回数と年齢制限はそのままですが、大きな進展です。
来年の公的保険適用、実施に向けて、更なる議論がされるのではないかと思います。これにより、3重苦の一つである、経済への負担が軽減され、不妊治療についてのハードルが少々下がるのではと期待されます。

不妊治療の公的保険適用までの工程(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000718601.pdf


質の向上
公的保険適用によって、不妊治療の方法、ガイドラインができ、質が向上することが期待されます。不妊治療を行う医療機関、クリニックのウェブサイトを見ると、玉石混交という印象を否めません。
私自身、日本国内ではありませんが、公的保険がない海外で、体外受精を考えたとき、クリニックを探したことがありましたが、その国では同治療に対する、ガイドラインはなく、各クリニックが海外(特に欧米)から得たメソッドを実施し、それを売りにしている印象を受けました。初回の問診のみクリニックに行きましたが、すでに知っている事を滔々と説明され、こちら側が知りたいことについての情報の提供は少なく、高額な医療費を支払う側の立場に立ってない供給者という印象を受けました。最終的には、医療機関を選ぶことができなかったことが思い出されます。
行政としてガイドラインを作る時に、全国的な調査もされることで、各クリニックの問題点や改善点なども洗い出され、最終的には、質が上がることが大いに期待されます。また、そうであってほしいです!

社会的議論の喚起
不妊治療がタブーというわけではありませんが、「性」「生殖」に関わる問題は、なかなか話題にしずらいと思います。しかし、政府が政策として、掲げたことで、声を上げやすくなったことは、大きな成果だと思います。
もし、20代、あるいは30代前半で医療機関を受診していたら・・・と思う40代のカップルもいるのではないかと思います。不妊治療の経済的、身体的、精神的、そして社会的な困難、それを考えてなかなか医療機関への受診に踏み込めなかったカップルは、もしかしたら、比較的体の負担の少ない治療で妊娠に至れていたかもしれません。

根本問題への解決にはまだまだ時間が必要?!

不妊治療の公的保険適用による、経済負担の軽減、社会的問題喚起は希望的だと思います。しかし、これだけでは、硬直的で同質的な日本の社会への応急措置をほどこしただけに過ぎないのではないかと感じました。
何故、不妊治療が必要か。その理由の一つは結婚の高齢化、それに伴う妊娠・出産の高齢化です。女性が本当の意味で、社会に進出できていないことが問題なのではと思います。仕事を続けたい女性が、出産・育児と仕事を両立できるような環境となっていないこと等は大きな課題だと思います。また、女性のみが両立しなければならないという考え方、あり方自体に大きな問題があると感じます。
妊娠や出産を理由とした解雇は禁じられているものの、職員は暗にプレッシャーを感じて、会社に居づらくなることもあります。また、妊娠・出産に至ることができたカップルでも一方に(多くは女性)家事と育児の大きな負担がかかる「ワンオペ育児」も問題です。
さらに、保険適用で、「生まない選択をした人達」に対して風当たりが強くなるのではないか・・・とも心配されたり、同性カップルの場合は、どうなるのか・・・こうしたことも総合的に考え、考慮されるべきでしょう。

女性の社会進出が叫ばれて久しい中でも改善されない現状を考えると・・・まだまだ先は長いのですが、今回の改正が、議論を喚起して、よい変化をもたらしてくれることを心から願っています。

参考ウェブサイト

不妊に悩む方への特定治療支援事業(厚生労働省)

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