「異界探偵トレセ」 とは、フィリピン人作家Budjette TanとイラストレーターKajo Baldisimoによる同名のコミックシリーズがアニメ化された作品です。2021年6月10日に米国で、そして翌日の6月11日にNetflixで世界同時リリースされました。 日本では「異界探偵トレセ」のタイトルですが、原作は「Trese(トレセ)」で、英語圏でもこのタイトルで公開されています。
フィリピンでは、今まで多くの日本のアニメ作品が放送されてきました。しかし、今回はフィリピン発の作品!ということで、原作のファンのみならず、フィリピン国内外で話題となりました。トレセとはどんなアニメか、またトレセを楽しむために知っておきたいことをまとめました。
(c) Netflix
異世界探偵トレセとはどのようなアニメか
「トレセ」は、フィリピンの神話とホラー、社会のダークな側面を融合させたダーク・ファンタジー・アニメ。首都圏マニラで起こる超自然現象に由来する犯罪を扱うミステリアスな探偵アレクサンドラ・トレセが主人公です。
警察が、超常現象を由来とした犯罪を解明・解決できない時には、ゲレロ警部に呼ばれ、専門的な知識と技術をもってトレセとその仲間が問題の解決を図ります。一話完結型のアニメのように思われますが、一話にいくつかの事件が関連し、過去から現在をつなぐ話の構成です。
トレセを楽しむために知っておきたい知識
フィリピンの怖い話、民間伝承、神話などを知っている人には、妖怪がアニメ化されると、こんな格好になり、こうした人格をもつのかと、興味深く、フィリピンの島々に伝わる豊かで多様な民話・民間伝承に新たな光を当てた作品と言えると思います。しかし、それらを知らない限りは、「?」な用語が多いこのアニメ。少々解説いたします。
トレセの世界観は異質なものではない
フィリピンは一般的には、カトリックが人口の85%を占める、キリスト教徒が多い国として知られておりますが、地方にはまだ様々な民間信仰、伝承、神話も残っており、信じられています。トレセはもちろん、フィクションで、ダークファンタジーですが、フィリピンにある世界観ーこの世とあの世の境目が薄いことーが下地になっています。例えば、トレセがヌノ(妖怪)を呼び出すときに「Tabi Tabi Po(タビ・タビ・ポ)」と唱えますが、これもフィリピンの田舎、特にまだ、まじない師などがいる地域では、信じられ、行われていることです。日本語に訳すと「ちょっと、どいてください」という意味です。
ちなみにタガログ語の「Tao po(タオ・ポ)」というのは、よそのお宅を訪ねる際に用いる言葉で、日本語に訳すると「ごめんください」となるのでしょうが、直訳すると、奇妙なことに「人間です」という意味になります。スペイン植民地化前の時代から使われており、歴史家曰く、自分が(妖怪などではなくて)人間であることを宣言するためこのフレーズを使っていたといわれています。タオ・ポは今でも使われていますが、こうした歴史的由来があります。
物語の登場する怪談、伝承、妖怪たち
冥王の女王イブの使者 Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese) (c)Netflix |
ホワイト・レディ(White Lady)
第一話は、都市伝説のバレタ通りの「ホワイト・レディ」が登場します。バレタ通りは、首都圏マニラの高級住宅街を貫く一本の通りの名前ですが、その道を通るドライバーが度々ホワイトレイディ(白い服の幽霊)を見たという話はよく聞かれるフィリピンの怪談です。実際に通ると、柳のような木が多く、風に揺られて疲れているタクシードライバーだったら幽霊に見えなくはないというものですが、都市伝説であり、またフィリピンのれっきとしたホラーです。バレタ通りのホワイト・レディ Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese) (c)Netflix |
ヌノ(Nuno)
ヌノ(「老人」または「祖父母」)あるいは、ヌノ・サ・プンソ(「蟻塚に住む祖先・祖父母」)は、フィリピンの神話に登場する小人のような精霊です。蟻塚に住んでいると信じられています。上記の通り、小人の許可を得ずに誤って踏んでしまうと、小人に呪いをかけられて、翌日の夜に突然熱が出たり、不治の病にかかったりすると言われています。そのため、ヌノのところに戻って許しを請うか、時には食べ物をお供えすることで、機嫌をとるなどしていました。トレセでは、作者の創造力から、ヌノを裏社会の情報屋として、マンホールから出没させています。
ヌノ(Nuno) Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese) (c)Netflix |
アスワン(aswang)
アスワンは、フィリピンの民間伝承に登場する、吸血鬼、悪鬼、魔女、臓物を吸う者、獣人など、様々な形を変えた邪悪な生き物の総称です。アスワンは、フィリピン人の持つ価値観を反転させた行動をとる存在で、フィリピンの民話においては一番恐れらているといっても過言ではありません。フィリピン全土でよく知られているため、さまざまな神話、物語、芸術、映画の題材になっています。イブワ(Ibwa)
イブワはアスワン一族の長の一人です。イブワはかつて人間の姿で人々と交わっていました。葬儀の際、弔問客の軽率な行動により、イブワは人肉の味に溺れてしまいました。それ以来、イブワから遺体を守るため、彼らの恐れる鉄を墓の上におく風習が生まれました。物語の中では、食肉の解体をするように、人体をさばいている姿が描かれています。
Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese)
(c)Netflix
ティクバラン(Tikbalan)
ティクバランは、フィリピンの山や森に潜むと言われる背が高く、人型であるものの、馬の頭と蹄を持つフィリピンの民間伝承の生物です。旅人を怖がらせて道を迷わせなどのいたずらをします。Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese)
(c)Netflix
サン・テルモ(Santelmo)
サンテルモ(聖エルモの火)は、フィリピンの神話に登場します。サン・テルモという言葉は、タガログ語の "Apoy ni San Elmo"-"St. Elmo's Fire "の短縮形です。セント・エルモの火は、古くから船乗りにとって天の介入の前兆とされてきました。聖エルモの名前は、小さな帆船で嵐や海の力に挑戦した初期の地中海の船乗りの守護聖人ですが、フィリピンの神話によると、サンテルモスはお互いに戦う火の玉で、事故が起きた場所に現れるとされています。物語で登場するサン・テルモは1950年代にマニラのビノンドで起きた大火事に由来するとされています。
サン・テルモ(Santelmo) Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese) (c)Netflix |
ティヤナック(Tiyanak)
ティヤナックは、洗礼を受けずに亡くなった赤ちゃんの魂だと言われています。ティヤナックは幼児のような泣き声で人を惹きつけ、拾われると恐ろしい姿に変身し、被害者が死ぬまで痛めつけます。ゲゲゲの鬼太郎子泣き爺のような印象を受けました。泣いている子泣き爺を見つけた通行人が抱き上げると、次第に重くなり、手放そうとしても離れず、遂には命を奪ってしまうとされている・・・物語の中では、女優に憑りついていましたが、それには理由がありましたありました・・・
Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese)
(c)Netflix
マナナンガル(Manananggal)
マナナンガルは、胴体と下半身を切り離して夜に飛び、寝ている妊婦を好んで捕食し、細長い口吻のような舌で胎児の心臓や寝ている人の血を吸うと言われています。各地に伝承がありますが、有名なのが、フィリピンの中部、シキホル島に伝わるマナナンガルです。 昼間は人間の姿をしているため、マナナンガルである事を見抜くのは非常に困難です。また、自分がマナナンガルである事を自覚していない場合もあるのだとか。個人的には、フィリピンの伝承の中でお気に入りの生物/妖怪であるため、ちょっと嬉しかったりします。
中央の美女がマナナンガル(Manananggal) Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese) (c)Netflix |
その他にも、葉巻を吸う巨人カプレ、いたずら好きの妖精エンカントス・・・こうして、妖怪が映像化されるというのはとても興味深いものです。
アニメのリアルさ
人間界と異世界とのバランスをとるため、トレセが警察や仲間たちと共に奮闘しますが、そんなことはお構いなしの人間も登場します。自分の欲望のために、妖怪たちとすら手を組む政治家などは、もはや人間とは思えぬほどです。しかし、現実世界をみると、自分の利益のためには、他人の命すらなんとも思わぬ、人たち、政治家がいることを考えると、妖怪以上のコワさも感じますし、妖怪の話もなぜか現実味を帯びてきます。他にも、マニラの街並みのリアルな描写は、実際に存在する場所の特定が可能なほどです。マニラの昼間は、常夏の国の日差しが強く照り付け、まるですべてが白日の下にさらされているような印象すら受けますが、夜のマニラ、特にオレンジ色の街頭、そしてその街頭もところどころにしかなく、薄暗い夜道は、犯罪を連想させるほか、怪談話が出てきてもおかしくない、妖しさと不気味さです。そんな妖しいマニラの夜の街の背景も魅力の一つです。
オレンジ色の街頭が灯る夜のマニラ Netflixアニメ「異界探偵」トレセ (Trese) (c)Netflix |
実際に視聴して
話のスピード感、構成なども、満足の作品で、とても楽しめました。はじめは、アニメの絵が、アメコミみたいであることや、人物の動きが固いこと、特にタガログ語のオリジナル音声は、こんな話し方する人いない・・・(クールな人物が多いので、感情的ではないので、ややもするとセリフが棒読み?にも聞こえなくない)と思われるところもあり、どうも日本のアニメ作品を見慣れているといると、少々とっつきずらさもありましたが、視聴し始めると、次回がきになり、結局2日でシーズン1を視聴し終えてしまいました。今となってはシーズン2が楽しみです。関連ブログ
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