検証:フィリピンでは5人家族が10,727ペソ(23,000円)で生活できるのか?

フィリピン統計局の長官によると10,727ペソ(23,000円)で、フィリピンの一世帯(5人家族)が基本的な栄養を取ることができる食事と基本的な物品を入手できると試算し、この金額以下で生活する世帯を貧困世帯としました。一人あたりに換算すると一人あたりの予算は約71ペソ(約150円)。この数値を元にすると、フィリピンの国民の16.6%、1700万人が貧困状態ということになります。
フィリピンで約23,000円/月で家族五人が生活できるのか?
フィリピンで約23,000円/月で家族五人が生活できるのか?



世界銀行は、2015年10月、国際貧困ラインを1日1.25ドルから1.90ドルに改定しました。物価の変動を反映させることで、より正確に貧困層の数を把握する目的があります。この数値は、2011年に世界各国から新たに集められた物価データに基づいて設定されています。これを踏まえると、政府の一人あたりの予算は約71ペソ(約150円)は約1.37ドルにしか満たず明らかに不足しています。

多くの人はフィリピンは物価が安く、23,000円もあれば最低限の生活を営めると考えますが、果たして本当にそうなのでしょうか。政府の試算が一般的なフィリピン人の生活の実態に即しているのでしょうか。実際計算して発表された試算が妥当であるのかを検証してみました。


政府が計算した基本的ニーズ

フィリピン政府は、5人世帯で食費は約7,500ペソ(16,000円)必要であると試算しています。試算の元としたのは以下のメニューです。

朝食:スクランブル・エッグ、ご飯、コーヒー
昼食:緑マメ(モンゴ)、乾物(干した小魚)、ご飯、バナナ
夕食:アジ、カンコン、ご飯
間食:パンデサル(食卓パン)

7,500ペソを30日で割ると、250ペソ(533円)が一世帯の一日の食費です。しかし上記の政府が提案するメニューは250ペソに収まるのでしょうか。

※以下の計算は少々細かいので読み飛ばしてください。
朝食
まず朝食ですが、卵1個は現在7ペソ〜10ペソします(卵、実はそれなりに高いのです)。そのため、一世帯(5人数分)では35ペソから10ペソします。ご飯は、2合(300グラム)/1食なので、16ペソとします(米1キロを50ペソと計算)。コーヒーは3IN1タイプのインスタントのため、6ペソ〜8ペソ/1スティック×5とします。すると、81ペソから106ペソかかります。朝食ですでに予算の40%を消費しています。

昼食
引き続き昼食ですが、緑マメは材料費などから30ペソ、干し魚は20ペソ〜30ペソ、ご飯は同上、バナナは5ペソ/1本で計算し25ペソで、91ペソから101ペソです。

夕食
夕食のアジは、5人分で50ペソから100ペソ(シーズンによりキロあたりの値段は変わりますが・・・)、カンコン(アサガオナ)10ペソ、ご飯は同上で、76ペソから126ペソです。

間食
間食のパンデサル(いわゆる食卓パン)は、サイズによりますが3ペソから5ペソ/1つとして、5人で10つのパンデサルを消費すると30ペソから50ペソとなります。

一カ月の食費の合計は?

これらを合計すると、278ペソ~383ペソ(600円から830円)/1日の食費が5人家族には必要となります。そうなると、最低限とされる計算でも政府の計算式を若干上回ることがただあります。つまり、278ペソ×30日は8,340ペソです。もちろん、節約のための様々な工夫はただありますが、ひとまずこの値段としておきます。

※米50ペソ/1キロで計算

光熱費

フィリピンで特に高いのが電気代です。夫婦二人でアパートに生活していた時はテレビ、冷蔵庫、エアコンなどない家で、月300ペソほどの支払いがありました。しかし、そんな家はあまりないので、5人家族でテレビと冷蔵庫、扇風機がある家ではおそらく500ペソから1,000ペソほどなのではないかと推定されます。水道代は150ペソ~300ペソほど、ガスは通常タンクを購入するのですが、600ペソ~700ペソ/月~一カ月半でしょうか。
1,050ペソ~1,800ペソ/月が光熱費として計上できます。

交通費

家が貧しいと、車を所有していることなど決してありません。そのため、公共の交通機関をフルに活用します。子ども学校までは徒歩としても、勤め先までの移動にいくつかの交通機関を乗り継いでいくということは少なくありません。フィリピンでは、交通費は自分の給与からであるため、これも家計からの出費となります。

公共交通機関の初乗りは約8ペソ。往復で16ペソですが、これは職場が近い場合のみ。職場が遠い場合は、乗り継いで一日の交通費が60ペソという場合もあります。最低限の交通費ということで、16ペソ×30日として、480ペソとします。単純計算としてこれが一家族で2,400ペソとなります。

教育にかかる費用

フィリピンの公立学校では、授業料は無料です。しかし、もろもろの費用が必要になります。プロジェクト費といわれる図画工作のための費用、制服や体操着等の費用です。毎月それらが必要というわけではありませんが、貧困世帯にとってはそれなりの負担です。月で割って、000ペソとしましょう。

その他

日用品(シャンプー、石鹸、歯磨き粉、生理用品)、ちょっとした薬(解熱剤、痛み止め)、通信費等は約300ペソと計算します。



まとめ

食費、光熱費、交通費、教育費の合計は?11,990ペソです。もちろん、お金がなければ歩きますし、食費も節約し、貧しければ電化製品も少ないため電気代も低く、抑えることはできます。よって、もう、1,000ペソから2,000ペソほど節約しようとするならば可能でしょう。しかし、家賃も含めて11,000弱というのは、難しいでしょう。一家5人が生活できるようなアパートは3,000~5,000ペソします(田舎ではもう少々安いのですが、それでも2,000ペソはします)。そのため、おそらく13,990ペソ(約30,000円)は必要です。なので、この政府の試算を聞いた時に思わず、スクォッターで生活する人たちの生活について述べているものかと思いました。

no frills(余分なものはなし)で、11,000弱ということでしたが、病気の医療費はFrillsなのでしょうか?この計算には病気になった場合の医療費は考慮されていません(フィリピンの医療は質が悪い上に高いのが特徴で、特にこれは田舎の病院で顕著です。診断に平均で500ペソほどかかり、抗生物質などは数百ペソかかります。更に血液検査など含めると一回の通院に約500ペソから1000ペソが必要です。)。物の値段は確実に上がり続けるものの、給与の上昇がインフレに伴わないフィリピンで、10,727ペソで5人が人間らしい生活を送るというのはかなり難しいでしょう。市井の人々の反応は、「うちには大学に通う子どもいるし、交通費がかかるし、子どもの課題制作費用もかかるから・・・」「子どもが3人もいて・・・何かと生活費がかかる」「この数値を発表した人にこの予算で2か月は過ごしてほしい」等々とネガティブ。

フィリピンに生活したものしかわからないような計算を披露して大変恐縮ながら、何が言いたかったというと、これをもって現政権が貧困政策に成功し、貧困に陥る世帯を減らすことができたというのは、事実とはかけ離れているということです。農地改革なしに真の貧困削減は出来ないし、大企業や大地主を保護するような政策をやめなければ、結局の所、問題は変わらず、人々は単に海外に職を求めるだけです。

麻薬撲滅キャンペーンという名のものとの法律なき人殺しも独りよがりな貧困政策も、もう勘弁してほしいというのが、フィリピンに関わるものとして思う所です。

関連ブログ

フィリピンって本当に安いの?フィリピンの物価感覚
耕すほどに貧しくなるフィリピンの農民ー農村の貧困を考える
[映画]「 ローサは密告された(Ma Rosa)」 から見るフィリピンの社会と麻薬撲滅戦争

参照リンク

Proportion of poor Filipinos was estimated at 16.6 % in 2018
https://pia.gov.ph/news/articles/1031378
Proportion of Poor Filipinos was Estimated at 16.6 Percent in 2018
https://psa.gov.ph/poverty-press-releases/nid/144752

'No frills:' Family of 5 can live on ₱10,727, economic officials say
https://cnnphilippines.com/news/2019/12/11/Poverty-minimum-wage.html

Poverty reduction: President Duterte’s lasting legacy
https://www.bworldonline.com/poverty-reduction-president-dutertes-lasting-legacy/

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