耕すほどに貧しくなるフィリピンの農民ー農村の貧困を考える

フィリピンでは何らかの形で農業に関わっている人は25%程。この数は年々減少傾向です。ヘクタール毎の収穫は、制度や技術の遅れなどを理由とした農業の非効率性などからASEAN諸国と比較しても低く、米を主食としながらも近隣諸国から米を輸入しています。このような状況で、農民はますます貧しくなります。そんな農家を取り巻く状況とは。

カメラに気づいて、ピース!
7月の台風、9月の洪水を乗り切り実った稲の穂を手作業で刈り取っています。近所でも見ている作業風景なのですが、カメラを持っていたので許可をいただき撮影させてもらいました。

「変わらない」フィリピンの理由は、耕すほどに貧しくなる農民がいること

フィリピン関係者は口々に、ASEANの他の国と異なって、フィリピンは10年前と全く変わらない!と言います。もちろん、OFW(海外で労働に従事するフィリピン人)向けのコンドミニアムが競うように立ち並び、ショッピングモールやきらびやかなショーウィンドウ、物価も上昇し続け、都心にいる限りでは、かなり発展したという印象を受けます。

そのため、農村や都市部のスラムの貧しさは全く想像出来ません。フィリピンが「変わらない」理由は、国民の約25%を占めると言われる農業従事者の生活が楽にならないためです。

農村部では、土地を所有する農民は多くはありません。地主の土地を耕す小作農が多く、彼らが決して豊かになることが出来ない構造的な仕組みが存在しています。豊かになるどころか、耕すほどに借金をかさみ、貧しくなる農民たちも多いのが現実です。

儲けが残らぬ仕組み

農民はわずか、1ヘクタール、あるいはそれに満たない土地を耕します。その土地を耕すためには、肥料や農薬が必要になります。場合によっては地主にツケで購入し、そのツケを借料とともに収穫で現物払いをするシステムをとります。現物払いをすることで、もちろん価格が良い時に市場に卸すことが出来ません。

仮に大家が収穫後の現金での支払いを許しても米の場合は、脱穀機を持つ農家はごくわずかであるため、脱穀機を一日あるいは半日でレンタルする他、脱穀後もみを取るため精米する場合もサイドカー等のついたバイク等で精米所に運び、お金を払い脱穀しなければなりません。
あるいは、業者を介しての農産物の販売であるため、安く買い叩かれるというケースもよく聞かれます。特に交通手段を持たない農民が農産物を販売する方法はかぎられてしまっています。

効率化されない農業

フィリピンの農業の機械化は遅れており、農村部の多く、農業組合等が発達していない地域では、多くの作業は手作業で行われています。田畑を耕す作業から、収穫まで。人手が必要となるため、人を雇っての作業となるか、家族総動員で行われています。

人を雇う場合は、現金で給与を支払うか、あるいは収穫物の一部を持ち帰ることを許されます。儲けが少ない中、このような費用が必要となります。

詳細は「お米を食べれるようになるまでーマニュアルなフィリピンの米の収穫」に書いた通りですが、手作業による収穫は、鎌を使用。株の根元から刈り取り、束ねます。そのあとは脱穀。脱穀は機械を使うこともあれば、勿論手作業という場合もあります。

そのあとは、もみ殻がまだ付いている状態で天日干しにします。これは、家族が行います。コンクリートの道を掃いて、ゴミを取り除いてそこにまだ籾殻のついたままのお米を広げます。日中のみ天日干しで、大体2~3日ぐらい。その間、犂などで全体にまんべんなく太陽光があたるようにします。こちらのお米の袋は大体50キロほど。天日干しにするのもひと作業です。

天日干しされている精米前の米、フィリピンでよく見かける光景
もちろん、天日干しにできる広い場所があることが一番なのですが、たいていの場合は難しいため
公道にひろげられています。
そのあとは精米所に持っていき、機械にかけます。一袋50キロほどあったお米は、白米のみで30~40キロほどとなります。残りは、籾殻。籾殻は豚のえさとなります。



米、1キロ約50ペソ(100円)です。米を主食とするフィリピンという国柄を考えると「安く」はありませんが、これ以上値段が下がったら農民が食べていけません。

自由貿易によるダメージ

フィリピンの農家のさらなる難しさは、自由貿易による競争によりもたらされました。フィリピンは他のASEAN諸国と比較して、早い時期に貿易が自由化されました。米も低率関税措置がとられました。

国内の米は、輸入品に抗することが出来ませんでした。フィリピンのお米の1ヘクタールあたりにかかる生産費はタイ等と比較しても2から3倍高く、国際競争力はありません。

皮肉にも海外からの米が安いという状況になります。コレで利を得られるのは、都市部に生活する住民たちのみです。

ではどうしたら良いのか

小作農で、地主に現物支払いをするために生産物の価格調整が出来ず、仲介業者や地主に農作物を安く買い取られ、機械化されていないために農作業の効率が悪い中で働けど楽にならないフィリピン農民。

これまで歴代の政権は、それぞれの貧困政策を行ってきました。しかし、貧困の1つの大きな原因といわれている、土地改革がなされませんでした。土地改革されることで、農民は自らの田を耕すことになり、生産物から得た収益を自分のものとすることができます。しかし、土地改革は、多くの有力政治家がイコール大地主であったためで、実際の土地改革は骨抜きとなりました。

既得権益を守るため、名望家が公職ポストを占めています。この政治を解体しないことには、貧困問題に対応することができません。政治の仕組みが変わることがキーとなります。これに関する法案が2015年に議論されましたが、成立することはありませんでした。

名望家の公職ポスト占有率を低下する法案を可決させること、そのために働く政治家を政治に送り出すこと。また、農家も農業協同組合等を結成し、農民が土地所有者からの依存を最小限にするために、農薬や肥料等の価格を抑えること、低金利のローンを提供する等が考えられます。

いずれにしても、一般市民がより、政治で何が起こっているか関心を持ち、既得権益を解体して、それに対する代案を持つ政治家に投票することが必要です。

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