スパイ・ゾルゲの生まれたバクー、ゾルゲ記念碑訪問

「バクーに行くんだ〜」と友人に告げたら、バクーってどこだっけ?と返された。「スパイ・ゾルゲの生まれた場所でカスピ海に面している、油田のあるあの場所」だよ!というと納得してくれた友人。しかし、多くの人にとって、バクーの位置もそうだがカスピ海の位置、ゾルゲって誰という人も多いはず。スパイ・ゾルゲが生まれた場所バクー、そこにある公園、そして記念碑に行ってみました。

スパイ・ゾルゲが生まれた場所バクー
スパイ・ゾルゲが生まれた場所バクー

新旧が同居する都市、バクーはココだ!

カスピ海に突き出たアプシェロン半島に位置する人口200万人のアゼルバイジャンの首都がバクー。形を見ると、なんだか鳥が羽を広げているような形で、かつてこの地に栄えたペルシャ帝国、その宗教ゾロアスター教(拝火教)の鳥葬を連想してしまいます。
アゼルバイジャンとその周辺地域
アゼルバイジャンとその周辺地域(c)Google
西にジョージアとアルメニア、南にイラン、カスピ海の向かいにはトルクメニスタンとカザフスタン、北部にはロシア

アゼルバイジャンのバクー
アゼルバイジャンのバクー(c)Google
ペルシャ語で「風が吹きつけた」という意味の「バード・クーベ」というのが一般的に言われている「バクー」都市の名称の由来です。
この場所をアップにすると、なんだか鳥が羽を広げているようにも見える
バクーは帝政ロシアの時代から、石油の採掘が活発で、この経済活動の故に、近隣諸国からの労働者、起業家等を惹きつけ、国際的な都市でした。のちにこの内陸部にあった油田は枯渇して、石油産業が一度は衰退しますが、のちに欧米の技術により新たに油田が発掘されました。

油田のオイルマネーで潤った街は、高層ビルが立ち並び「第二のドバイ」あるいは「第二のシンガポール」と呼ばれています。高層ビルが立ち並ぶ街の発展ぶりは、たしかにそれらの都市を連想させます。
バクーの富の象徴、フレームタワー
バクーの富の象徴、フレームタワー


バクーはシルクロードの中継地として、人々が行き交った場所で、旧市街地には12世紀に作られた城壁が残っており、同時に歴史も感じられる都市です。その都市に生まれたのがゾルゲ。

ゾルゲって誰だ?

かつての隊商の中継地であったバクー、現在はモダンな都市として目覚ましい発展を見せていましたが、かつてはロシア帝国、ソビエト連邦の一部だった歴史もあります。その時代にバクーで生まれたのが、ロシア系ドイツ人、リヒャルト・ゾルゲ。第二次大戦中に日本を震撼させたゾルゲ事件の首謀者でした。

ゾルゲ事件とは、ゾルゲを頂点とするソ連のスパイ組織が日本国内で諜報活動を行い、ドイツと日本の対ソ参戦の可能性などの調査に従事していました。1941年9月から1942年4月にかけてその構成員が相次いで逮捕され、一連の諜報活動が明るみに出ました。

ゾルゲの生きた時代とスパイ活動

ゾルゲは、1895年10月4日、当時のロシア帝国領バクー(現アゼルバイジャン、バクー)のドイツ人村サブンチュにて、ロシア人の母とドイツ人の父との間に生まれました。ゾルゲが3歳でドイツに戻るまで、アゼルバイジャンで過ごしました。

1914年10月に第一次世界大戦が勃発すると、志願するものの、1916年3月に西部戦線で両足に重傷を負います。負傷中にであった従軍看護婦から社会主義理論を聞かされます。その後、1917年のロシア革命に衝撃うけ、他の多くの若者たちと同じく、共産主義に興味を持ちます。

25歳 ロシア共産党に入党、コミンテルン、情報局に入局します。共産主義という理想に憧れたのは、ゾルゲだけではなく、当時のソ連は、共産主義を信じる若者たちが集まった場所でした。

ドイツ人ジャーナリストとして日本に入国したのが1933年、ゾルゲ38歳の時。東京麻布に居を構え、日本への理解を深めていきます。日本の古代史、政治史、経済史、日本の歴史に照らし合わせると現在の問題を理解できるようになったそうです。

記者の肩書を得て、情報収集活動を偽装し、ドイツと日本の軍の動向を探りました。ドイツ大使館の催しに参加するようになり、大使の信頼を得ることや、他の諜報員により得た情報は、無線機でソ連に送られ、独ソ戦の行方に大きな影響を与えました。

手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」ゾルゲの登場シーン
手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」3巻、ゾルゲの登場シーンp218
「アドルフに告ぐ」は手塚治虫の歴史漫画、全4巻。第二次世界大戦前後の時代のドイツ、日本を舞台に「アドルフ」というファーストネームを持つ3人の男達の物語。「ヒトラーがユダヤ人の血を引いている」という機密文書を巡って、関係者が巨大な歴史の流れに翻弄されていく様子を描いている、フィクション。ただ、一部の登場人物は実在の人物である。
手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」の3巻、4巻にも少しだけ登場します。コミックの中で、ゾルゲの諜報活動や一連の事件は話の傍流のため詳細には触れられていませんが、今回のアゼルバイジャン旅行を決めてから、改めて1巻から最終巻である4巻まで読んでしまいました。狂気の時代、そのゾルゲの生きた時代の雰囲気を知ることができるでしょう。

祖国防衛の英雄を祀る記念碑ーゾルゲ記念碑(Monument to Richard Sorge)

ソ連は当初、ゾルゲの存在そのものも否定していましたが、後に記念碑を作り、またスパイ活動推奨のために、ゾルゲを祖国防衛戦争の英雄とするようになりました。バクーの動物園近くにはゾルゲ記念碑が建てられた他、出生地であるサブンチュの生家は保存されているとのことです。アゼルバイジャン訪問中、生家には行くことはできませんでしたが、公園には行くことができました。
ゾルゲ記念碑(Monument to Richard Sorge)
ゾルゲ記念碑(Monument to Richard Sorge)
これが、ゾルゲの特徴的な目元が強調されており、納得です。ゾルゲ公園の入口にあり、
人々を出迎えています。

バクーのゾルゲ公園は、記念碑以外にさしたる見どころがないのですが、高さ3メートル、横5メートルの記念碑は、よくある等身大のブロンズ像などではなく、ゾルゲの目元がデフォルメされており、一般的に知られているゾルゲの特徴をよく表しており、これだけでも、個人的には見に来た甲斐があると感じられました。
ゾルゲ公園のモニュメント
ゾルゲ公園内にあるもう一つのモニュメント
1941年ー1944年という年号が刻まれています。

記念碑は、公園の入口にあり、訪問客を向かい入れております。市民の憩いの場である公園には、ベビーカーを押した子連れ、カップルなどが多く、このスパイの名を冠した公園であるということを忘れさせる和やかさです。ゾルゲ公園の隣にはコアラパークなる、ゆるゆるなミニ・遊園地があり、子どもたちで賑わい、日本に暗躍したスパイの影すら感じさせません。
ゾルゲ公園のとなりにあるコアラ・パーク
Google Mapで見た時に、この先に動物園があることから、本当にコアラがいるのかとおもいましたが、この怪しげなコアラのマスコット以外、コアラらしきものは見かけませんでした。
パーク内の至る所に設置されているこのコアラ像がまた微妙で、気持ちワルいというのは言いすぎな気もするし、可愛いとはとても言えない微妙さで、おもわず写真を撮ってしまいました。

英雄ゾルゲ

さて、上記でも少々触れていますが、近年になり政治的な意図もあり、ゾルゲが注目されることになりましたが、他の人々はどう思っているのでしょうか。アゼルバイジャン人一般の声ではありませんが、「Sorge is such hero, which should be example while educating today's generation」という記事を興味深くよみました。

インタビューを意訳すると「困難な歴史的瞬間に、ソルゲはファシズムと戦うため、(諜報員として祖国のために働くという)大変意義深い選択をしました。彼はバクーのドイツ人家庭に生まれ、後にドイツに移り住みましたが、当時ソビエト領であったアゼルバイジャン、そしてソビエトとの関係は、彼のその後の人生において、とても重要なものとなりました。彼は中国で、そして日本において任務を実行し、ソビエト連邦の歴史上最大の偉業を成し遂げ、のち逮捕され、日本の刑務所で亡くなりました。(略)彼は英雄であり、今日の世代(軍と民両方)を教育する際の格好の例です。」

やはり、英雄なんですね。記事では、バクーを訪れた際のMUSTな観光スポットとのことです。ゾルゲとアゼルバイジャンとのつながりは、幼少のころ(しかもまだゾルゲ自身の記憶がない時期)を過ごしたというたぐいのもので、客観的に深いつながりを感じられませんが、アゼルバイジャンを生まれとする国際的な有名人がスパイというのは大変興味深く、日本とのつながりを示すものであるとして、訪れるというのも意義深いことだと思います。

ただ、公園は町の中心部ではないことや、この周辺地域に観光スポットがあるわけではないこともあわせ、時間に余裕があって、こうしたことに興味がある人が訪れた良い場所なのではないかと思います。

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