YOLO - 人生は一度きり

 YOLO、読み方はそのまま「ヨーロー」。英語のYou Only Live Once. の頭文字をとったもの。意味は、「人生は一度きり」。その意味するところは、人生一度きりだから、思いっきり生きよ。2011年スラング(俗語)となり、友人との会話の中でもしばしば聞かれます。
 例えば、人前で話すのを恥ずかしがっている友人に対して「YOLOじゃないか!」と失敗を恐れずチャレンジするように勇気付たり、学業などの理由でパーティに参加しない友人がいたら「YOLOなんだから、人生楽しもうぜ!」と参加を勧めたり・・・
 YOLOの事例としてここオランダで記憶に新しいのはProject X Haren(オランダ北部)での暴動騒ぎ。16歳になる女の子が誕生日パーティを祝うためにFacebookを通じて知り合いに招待状を送りました。オランダ各地からその招待に応じて人が集まりましたが、終いには暴徒となり、公共物の破壊し100万ユーロの損害、多数の負傷者と110名の逮捕者を出しニュースとなりました。Youtubeでもその時の様子を見ることができます。特に怒れる若者というわけでもなく、「YOLO」を合言葉に破壊活動に参加していたようでした。一度きりの人生なのだから、時には?ハメを外して楽しもうではないか?ということだったようで、驚きの解釈です。

[だれがどう理解するのか]
 YOLOは何も新しい言葉ではなく、一昔前であれば、Carpe Diem「カーペーディエム」(Seize the Day)、意味は、今を生きよ。私の好きな映画Dead Poet Society「今を生きる」で、度々登場した言葉。今を精一杯生きることは、生の意味を精一杯考え、生きていくということとも考えられ、また生きているうちに可能な限りの快楽をやり尽くすとも、理解できます。もう一つ類似した言葉に、Memento mori「メメントモリ」という言葉、これもラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味で哲学・宗教の文脈でも使われてきました。YOLOは現在の生を強調しますが、その背後に「死」があります。死があるからこそ、今を後悔なく生ききるのだと。
 死を扱った哲学者のひとりはハイデガー。人間の有限性という事実を最もはっきりと示しているのは、「死」という現象。人は一人で死んでいくため、そこには圧倒的な孤独があり、死に直面した時の人間の弱さがあります。ハイデガーの哲学では、だからこそ死を意識して覚悟して生きること、シンプルに言ってしまえばそういう理解になります。
 宗教、とくにキリスト教の文脈では、一度きりの人生なのだから、神より与えられた命の意味を考え、イエスキリストに倣った生き方をすることとクリスチャンとの会話より理解しました。シンプルな言葉こそ、意味と解釈が広がっていくその例ではないかと思います。

[私という唯一の存在]
 私がYOLOと聞いたときに思い出すのは中学時代の理科担当のK先生。K先生は、授業中に脱線することしばしば。不真面目な学生であった私は、授業とは直接は関係しない話を度々して、授業が進捗しないのをウシシと喜んでいました。
 先生が授業と関連付けてよく話した内容、そして私記憶に今も留まっているのは、人間の生まれる可能性について。NHKスペシャルの「驚異の小宇宙人体」の映像を用いながら、精子が卵子と結びついて人として生まれる確率は3億分の1、今私たちがここに存在しているのは奇跡のようなものだと、数値・科学的知見を織り交ぜながら、生徒たちに熱く語ってくれました。思春期真っ只中の生徒たちは、生命誕生のプロセス、そこで用いられる語彙に恥ずかしさを覚えたわけでですが、先生は卑猥な話としてニヤニヤする一部の生徒をたしなめながら、如何に「一人ひとりが掛け替えない存在」であるかを授業の時間を度々割いて語ってくれたことを思い出します。
 私がYOLOという言葉から先生の「生の哲学」を思い出しているとは思いもよらない、あるいは先生は若い私たちにはわからないだろうけど、のちのち思い出すだろうと織り込み済みだったのか定かではありませんが、YOLOの言葉の基礎には「唯一の“生”」という考え方があるように、少なくともわたしには思われます。

[今、どう生きるのか]
 人生は、YOLOであることを思い出し、今の生にどういった意味を見出すのか考えさせられます。皆が皆、満足で望んだ人生を歩んでいっている訳ではなく、人との比較・嫉妬・自分へのガッカリ感・周りへの申し訳なさ・・・自分への静かな怒り、脱力感など感じながら生きていると私はFacebookの書き込み、人との対話から、そして私自身感じます。こちらで瞑想のレッスン(大学の一室を使って無料で行われているもの)時間、参加者が瞑想時間中に感じたことを語り合うのですが、一人の参加者は自分への怒り、現状への失望感を深く感じていると皆の前で瞑想の体験をシェアしました。その彼女とその後話す機会があったのですが、ポーランド国籍の彼女は結婚を前提に付き合っている彼がオランダ人であるため、オランダに移動後、不景気で職が見つからない故の苛々、焦り、心配を抱えていました。不安定になることを承知で、しかし彼との関係を考えに考えて選んだ道でしたが、今の立場に自分自身の存在を見いだせないでいるようでした。実際に解決しなければならない二人の問題が見えるものの、彼女の選択は一度しかない人生に自分を投機した結果であり、その後に続く結果の途上であると思われ、何となく親近感を覚えました。

 (肉体の)「死」、その瞬間を迎えるまでにどう生きるのか。そこで思い出すのが、「若き詩人の手紙」で詩人リルケと若い詩人は手紙を通じた対話の内容。若い詩人は、自分の書いた詩を編集者に送り、ことごとく断られ、怒りと同時に失望します。それに対してリルケは言います「あなたが書かずにいられない根拠を深く探って下さい。それがあなたのココロの最も深い所に根を張っているかどうかをしらべてごらんなさい。もしあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい《略》」心の深くに望むことを自覚して、それに従って生きよと聞こえます。だってYOLOですから。


以下長いですが、引用します。
You ask whether your verses are any good. You ask me. You have asked others before this. You send them to magazines. You compare them with other poems, and you are upset when certain editors reject your work. Now (since you have said you want my advice) I beg you to stop doing that sort of thing. You are looking outside, and that is what you should most avoid right now. No one can advise or help you - no one. There is only one thing you should do. Go into yourself. Find out the reason that commands you to write; see whether it has spread its roots into the very depths of your heart; confess to yourself whether you would have to die if you were forbidden to write. This most of all: ask yourself in the most silent hour of your night: must I write? Dig into yourself for a deep answer. And if this answer rings out in assent, if you meet this solemn question with a strong, simple "I must", then build your life in accordance with this necessity; your whole life, even into its humblest and most indifferent hour, must become a sign and witness to this impulse. Then come close to Nature. Then, as if no one had ever tried before, try to say what you see and feel and love and lose.

「あなたはご自分の詩がいいかどうかをお尋ねになる。あなたは私にお尋ねになる。前にはほかの人にお尋ねになった。あなたは雑誌に詩をお送りになる。ほかの詩と比べてごらんになる、そしてどこかの編集部があなたの御試作を返してきたからといって、自信をぐらつかせられる。では(私に忠言をお許し下さったわけですから)私がお願いしましょう、そんなことは一切おやめなさい。あなたは外へ眼を向けていらっしゃる。だが何よりも今、あなたのなさってはいけないことがそれなのです。誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。ただ一つの手段があるきりです。自らの内へおはいりなさい。あなたが書かずにいられない根拠を深く探って下さい。それがあなたのココロの最も深い所に根を張っているかどうかをしらべてごらんなさい。もしあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてご覧なさい、私は書かなければならないかと。
深い答えを求めて自己の内へ内へと掘り下げてごらんなさい。そしてもしこの答えが肯定的であるならば、もしあなたが力強い単純な一語、「私は書かなければならぬ」をもって、あの真剣な問いに答えることができるならばそのときはあなたの生涯をこの必然に従って打ちたててください」
引用:『若き詩人への手紙』 リルケ

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