【ドキュメンタリー】ネットフリックス「Happy Jail」ー踊る囚人のいるフィリピンセブ島の拘置所(CPDRC)とは?

「Happy Jail」は、ネットフリックスのドキュメンタリー(全5話)です。舞台は、セブ州のフィリピン刑務所セブ州拘置所・リハビリテーションセンター(Cebu Provincial Detention and Rehabilitation Center)、2007年にマイケル・ジャクソン「Triller」のダンスを囚人が披露し、そのモブダンスの完成度そして、囚人(多くが被拘禁者ですが、簡略化するため以下囚人とします)が披露したこともあり、世界に知られるようになりました。

"Thriller" (original upload)
(c) byronfgarcia

ドキュメンタリー「Happy Jail」とは?

「Happy Jail」はNetflixで配信されているドキュメンタリーで、フィリピン刑務所セブ州拘置所・リハビリテーションセンター(Cebu Provincial Detention and Rehabilitation Center)の「コンサルタント(実質の責任者)」に就任したマルコ・トラルが麻薬密売で悪名高いこの拘置所の囚人や職員たちに与えた影響、囚人たちの生活などが彼らのインタビューを交え描かれています。

フィリピン刑務所セブ州拘置所・リハビリテーションセンター(Cebu Provincial Detention and Rehabilitation Center)とは?

フィリピン中部の美しい海が有名なセブ島にある州立の拘置所で、セブ島の空の玄関口、マクタン空港からわずか約15キロ弱、小高い丘の上に位置します。この拘置所には未決拘禁者(刑事被告人)や刑が確定した囚人が(通常は)男女合わせて1,600人ほど(しかし現在は、現政権の「麻薬撲滅」対策で、囚人の数は3,000人以上で、夜身体を横たえて眠れるばしょがないほどの混雑具合です)が収監されています。
囚人は、刑確定後に刑務所に送還されますが、刑事事件の裁判は、判決までが大変長く、同拘置所に長くとどまる囚人が多くいます。この拘置所内で麻薬の売買が行われ、拘置所から流れた麻薬が市中に売られているという報告もある拘置所です。

元囚人が、拘置所のマネージャー

このドキュメンタリーは、「コンサルタント」マルコ・トラルを中心に描かれています。この人物の特筆すべき特徴は、元囚人であることです。マルコは、2002年に麻薬密売で逮捕されており、2009年に7年間の刑期を終えて釈放されましたが、ドキュメンタリーの中では、本来ならば終身刑と言われています。

2015年、当時のセブ州知事のヒラリオ・ダビデ3世の鶴の一声で拘置所の「コンサルタント」実質上の責任者となりました。州知事とマルコ氏は旧知の仲で、所謂縁故採用です。つまり、元囚人が拘置所を仕切ることになり、フィリピンの法規上、倫理的そして組織的にも問題となりました。

You can never take care of them if you don't know what you 're doing? You know. like,if you haven't been to jail, you're not gonna do even one-- one percent of what I'm doing....Like. you can't guard a jail if you're not an inmate. (自分が何をしているのか分からないと、彼らの面倒を見ることはできないだろ?例えば、刑務所に入ったことがなければ、僕がやっていることの1%もできないだろう...囚人でなければ刑務所の警備はできない。)

ドキュメンタリーにもありましたが、マルコは最終的には辞任しますが、拘置所は数年、彼の管理下になります。 

 

色々な囚人

拘置所には119の部屋があり、それらの部屋には約12名~の囚人が生活しています。囚人たちのリーダーとして選任された囚人、拘置所内で恋愛中の囚人(男女別棟になっているが、会える機会があるらしい)、ゲイの囚人、等、なぜ、現在拘留されているのか(どういう犯罪を犯したのか)、どういう気持ちで毎日を過ごしているのか等、彼らの生活や、踊ること等について、インタビューに答えています。インタビューにこたえる囚人のすべては、マルコになってから、拘置所がよくなったと答えています。
しかし、視聴者を複雑な気持ちにさせるのは、囚人たちの悪びれる様子のない返答です。明るいと言えば聞こえがいいのですが、被害者がいる罪を犯した人たちに反省の色がないようにも見えて人によっては、不思議あるいは不快に思うかもしれません。しかし、それも含めて様々な囚人をとらえています。

囚人たちにダンスを教えるインストラクター

インストラクターがおり、囚人たちにダンスを教えています。インストラクターは囚人ではないため、初めは囚人にダンスを教えることに対してためらいがあったようですが、ダンスを教える中、絆が生まれ、自分自身のキャリアにとっても重要なこととして認識しているようです。
振付を教えるほか、囚人の役を振り当てるなどします。リードダンサーは、主に殺人犯で刑期が長い人間を選びます。軽犯罪者を選んだ場合、すぐに釈放されてしまうからだそうです。ゲイは、「女王」的扱いで、ダンスでも、女性のパートを踊ったり、コメディ部分を躍らせたりといろいろを潰しがきくのだとか。

なぜ踊るのか?

2000年代半ば、当時の拘置所の元セキュリティアドバイザーバイロン・F・ガルシアガルシアは単調になりがちな刑務所内での運動を盛り上げるために、従来の運動方法に簡単なダンスを取り入れました。その結果、善行や仲間意識が高まり、以降、ガルシアは創造性を発揮し、ピンク・フロイドの「Another Brick in the Wall」やヴィレッジ・ピープルの「Y.M.C.A.」などの音楽を加えることで、さらにモチベーションを高めることに成功したといいます。
2007年には、1,500人以上の受刑者が、マイケル・ジャクソンの「スリラー」という最も野心的な課題に挑戦しました。このパフォーマンスを他の刑務所にも彼の異例かつ効果的なプログラムを導入してもらいたいという思いから録画してYoutubeにアップロードしたそうです。
驚くべきことに、この映像はわずか3週間で600万回ものアクセスを記録し、同年末には米タイム誌の「2007年のバイラル・ビデオ・トップ10」の5位にランクインしました。

月に一度のパフォーマンス

マイケル・ジャクソンの「Thriller」が広く知られてから、2008年4月からは、刑務所内でのパフォーマンスが一般公開されるようになりましたが、公演は毎月最終土曜日のみです。
入場料は「無料」です。チケットは、午後3時の公演の2時間前に、セブ・キャピタルの敷地内にある刑務所のビジター・パスというストラップの形で受け取ることができます。予約の必要はありませんが、チケットは先着順に配布されますので、見たい!場合は早めに会場に到着していなければなりません。
「公演」は、午後3時頃に始まり、1回の短い休憩を挟んで2時間ほど続きます。プログラムは、過去半世紀の間に大ヒットしたポップスの曲に合わせて、約15のダンスを踊ります。最後のナンバーでは、刑務所の中庭の床に近づき、囚人によるダンスレッスンを受けられます。レッスンが終わったら、囚人たちと写真撮影も可能とのこと。
(2021年4月現在は、ダンスの一般公開は行われていません。)

批判

ドキュメンタリーのインタビューを観ると「セレブになったみたい」と、ダンスに意欲をもつ囚人がいる反面、この刑務所のダンスは強制的かつ搾取的であり、適切なリハビリテーションではないと主張する刑務所リハビリテーションの専門家や人権運動家から批判されています。また、一部の元囚人は、参加を拒否した者に対する暴力を主張しています。
また、そもそものフィリピンの拘置所・刑務所の過密状態、不十分な食事の提供、換気の悪さ、衛生状態の悪さ、看守による囚人への非人道的扱いなどが批判されており、ダンスでのリハビリを考える前に、それらを改善すべきという声が大きいのが事実です。
実際、ドキュメンタリーでも、小さい部屋に12名(現在はその倍以上の人が収監されております)ほどが収監されていますが、映像からもその気密性をみることができます。

ちなみに・・・

2010年には、マイケル・ジャクソンの長年の振付師であるトラヴィス・ペイン氏と、ダンサーのダニエル・セレブル氏、ドレス・リード氏がコーディネートし、マイケル・ジャクソンの「They Don't Care About Us」に合わせて、囚人たちがダンスを披露したこともあります。ペイン氏は後のインタビューで、受刑者とのダンスについて「想像以上に感動的な体験だった」と語っています。「こんなに特別なことだとは思いませんでした。マイケルが亡くなる前にはいつも彼に(ビデオを)見せていたから、(一緒にダンスをするという)考えはあったんだ...」とダンスの囚人たちとダンスを踊る構想があったことをマイケル・ジャクソンに告げていたそうです。
Michael Jackson's This Is It - They Don't Care About Us - Dancing Inmates 
(c)SonyPicturesDVD


フィリピンの拘置所・刑務所の驚きの習慣や実態

家族の日

ドキュメンタリーでも触れていますが、定期的に囚人が家族と過ごせる日を設けています。家族を大事にするフィリピンらしい習慣ですが、家族が拘置所あるいは刑務所などで、ピクニックのように一緒に過ごす姿は不思議です。しかしながら、もちろん、すべての囚人が家族の訪問があるわけではありません。囚人の家族が、すでに縁を切っている場合、遠方に生活しているため、交通費がかかるなどの理由です。

犯罪行為の継続

ドキュメンタリーの拘置所では、麻薬の売買が行われているといううわさがあります。しかし、こうした犯罪は他の刑務所は拘置所でも聞かれることです。フィリピンの刑務所内でそれなりの水準で毎日を送ろうとすると、物入りになるため、お金が必要になります。その日銭を稼いだりする理由もあり、犯罪は継続されます。

拘置所/刑務所内での暴力や殺人

ドキュメンタリーのエンドロールで、ドキュメンタリーの撮影に関わった囚人が、拘置所内で殺害されたという痛ましい事件も起こっています。また、拘置所や刑務所内には派閥やグループなどもあり、暴力事件もあるようですが、それはあまり知られていません。

「Happy Jail」はドキュメンタリーですが、どこか日本人には考えられない、想像できない実態があるようです。

関連ブログ

参考ウェブサイト

Cebu Provincial Detention and Rehabilitation Center(facebook ページ)

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