よく、フィリピンにおいては4つのFに国民性が反映されるといわれます。4つのFとはFaith(信教)、Family(家族)、Face(メンツ)、 Festa(お祭り)です。フィリピンを説明するためによく使われているフレームワークです。
しかし、それらは単体としては存在しておらず、面子を守ることが、家族関係の中に投影されていたり、(郷土的な)お祭り、(カトリック的な)信教と相互に深く関連しています。
しかし、それらは単体としては存在しておらず、面子を守ることが、家族関係の中に投影されていたり、(郷土的な)お祭り、(カトリック的な)信教と相互に深く関連しています。
そんな4つのFを考える時に読んでおきたいのが「フィリピン社会と個人ーPhilippine Society and the Individual」。これは、イエズス会神父であり文化人類学の学者故フランクリンチ教授(1921-1978)のエッセー集。同教授がフィリピンの各地を訪問し、時には居住し、行った調査をまとめたものです。
フィリピンに対する定説4つのFがフィリピン社会の中でどのように規範となり、制度に組み込まれ、文化として承認されていったのかを各エッセーを読みながらひも解いていくことができるのではないかと思います。またフィリピンの富裕者とそうではない人たちの関係を別の視点から読み解けるのも本書の良さです。
著書「フィリピン社会と個人」の構成
エッセーは大きくは5つの章に分かれており、1. フィリピン人の価値、社会格差、エリート、2.調査の技法、3. 宗教:信念の体形とその実践、4. マイノリティ、5. 西洋が東洋に出会うとき、どれも興味深い章建てです。フランク・リンチ教授による「フィリピン社会と個人」 |
フィリピン人の持つ親和性
つまり実験として、インタビュー者はフィリピン人のインタビューの協力者の価値観とは異なることを投げかけても、協力者はインタビュー者に真っ向から反対しません。相手の面子を守ること、そして真っ向から争わないことで自らの体面を保ちます。
また、婉曲語句を用いることも親和性という特徴を示す一部であると思います。フィリピン人が「siguro nga」(まぁ、そう思うよ、あるいは、あるかもね)という表現を用いた時は、話者に対して合意を示していないことが多いということも述べられています(P39)。こうした話法が関係性を円滑なものとしています。
カトリックの機能性
フィリピンはカトリックが人口の80パーセント以上を占めています。国民的な宗教である、キリスト教は、300年以上にわたるスペインの統治によってもたらされました。フィリピンで既に長い歴史を持つ、キリスト教。本書でリンチ教授は、カトリックを宗教として、個々人の信仰を支えているという点のみならず、コミュニティの連帯への貢献を挙げています。また、フィリピンのカトリックをフォーク・カトリシズム(民衆カトリシズム)の一つの形態とも考えます。フォーク・カトリシズムとは世界のカトリックの諸共同体で実施されている多様な諸相です。ちなみに、ローマ・カトリック教会はそれら全てを異端視せず、現実的な姿勢を取っています。
著者の聞いたところによると、胎児が出産時に死亡したものの、その遺体は腐らなかったので、「聖なるもの」として御遺体をチャペルに祀ったという話も聞いたことがあります(実際見たわけではありませんが、教員仲間から聞きました)。
「大きな人と小さな人の関係」は搾取?
本書にはBig and Little People: Social Class in the Rural Philippinesというエッセーのタイトルがあります。Big and Little Peopleー大きな人々と小さな人々ですが、これはフィリピンの地域社会における一つの身分的な違いを示しています。大きな人とは、土地や財産を所有しており、地域社会の意思決定に影響を与える、あるいは意思決定機関の一部(バランガイのキャプテンなど)となっている人たちで、小さな人とは大きな人たちの所有するようなものは持たず、社会でも大変立場の弱い人々のことです。
ココだけを切り取ると、”大きなひと”が”小さなひと”を搾取するという構図が浮かびますが、同教授はこれは相互依存関係にあると説明します。専門用語を使うと、パトロン・クライアント関係にあると言えます。
パトロン・クライアント関係とはパトロン(保護者)はクライアント(被保護者)に対し、生活全般の保護・保障をします。その見返りにパロトンはクライアントから従属や支持・協力を得られる関係です。
実際の彼らの生活にあてはめると、パトロンは町で何か祭りごとがある時には、寄付などを期待されます。また、パトロンは大体は大きな家に住んでいるため、そうした家の敷地で祭りで皆で食べる動物ー多くは豚ーを屠殺する場所として、あるいは、災害時の避難場所として開放されたりします。
500ページの大作!
ページ数は500ページほど。これを聞いて、そんなに読みたくない(笑)と思われた人もいるかと思いますが、エッセー集なので、数ページでひとエッセー。そのため、読み方ははじめから順に読むのもよし、気に入ったテーマに合わせて読むのもよしと、気を負わなくてよいのが嬉しいところ。そして、書かれている英語もかなり簡易で、読みやすいです。第1章のBig and Little People: Social Class in the Rural Philippinesと第3章のFolk Catholicism in the PhilippinesとTown Fiesta: An Anthropologist's viewが現代のフィリピン社会にも通じるものがあり、フィリピンの大学で教鞭をとっている際のリーディング・マテリアルとして使わせていただきました。
この本は、学術研究、とくに文化人類学の研究をされている方だけではなく、フィリピンに関わり長い方もこの本でフィリピン人の文化(習慣・行為など全般)の背後にあるもの、その理由の一端を理解することができると思います。
「機能主義的」な視点に貫かれているため、説得力にかける部分もあるように思います。そして、学問的なドライさを感じますが、同時に教授の社会的な弱者へのまなざしを感じます。
Published in 2004 for the Institute of Philippine Culture.
スポンサーリンク
スポンサーリンク
0 件のコメント :
コメントを投稿