第二次世界大戦中、約1000人のフィリピン人女性が従軍慰安婦となりました。その女性たちに敬意を表し慰安婦像が発表され、ニュースになったのが昨年末、2017月12月のことでした。
3月29日のニュースで「フィリピン人慰安婦像」という題名とともにデザインした人物の名前が書かれていた台座部分のプレートの文字が、3月28日までに何者かに消されていたことが報じられ、またしてもこの慰安婦像がニュースとなりました。
後者については、フィリピン国内では大きく報じられることはありませんでしたが、慰安婦像の建立は、フィリピンでも全国的に報じられました。とりわけニュースの焦点となったのが、政府側の対応でした。メディアを通じた報道を追ってみました。
銅像の台座のプレートには、
台座の背後にLila Pilipina(フィリピン人女性連盟)をはじめ慰安婦像前のアロハホテルのオーナーマニュエル・チュアさん、第二次大戦中に中華系のゲリラグループに属していたディー・コン・ヒさんなど女性グループ、中華系のビジネスマン、Tulay Foundation. INC、WAI MING CHARITABLE FOUNDATION FUND LIMITEDなどの団体によって寄贈されたと記されています。実際のところは、マニュエル・チュアさんによるところが大きいとメディアは報じています。
慰安婦像はフィリピンの主要省庁とフィリピンの日本大使館があるロハス通り(Roxas Boulevard)のマニラ・ベイウォークに立っています。
それを受けてマニラ市長秘書官のエドワード・セラピオ弁護士は、マヌエル・チュア氏が率いる中華系フィリピンの団体によってこの像が建てられたと釈明。事前に財団は、彫刻の場所について市に書簡送っているものの市行政側は、Department of Public Works and Highways. (公共事業道路省)から許可を得るべきであると返答したとのこと。
公道における建造物は、Department of Public Works and Highways. (公共事業道路省)から許可を得なければならないのですが、この銅像は許可なく建立されたことがこのようなやり取りの中で明らかにされました。同省の関係者は、申請があったら却下していただろうとコメントしています。
メディアの報道を追っていくと、どこか責任の所在がどこにあるのかをなすりつけ合うもの、となっている様子が伺えます。
ドゥテルテ大統領は、憲法で保障されている自由表現の一部であるため、慰安婦像の展示は取りやめられないとし今年1月9日に会談した野田総務大臣にもその旨を伝えつつも、この問題は "国家政策には引き継がれていない"と述べています。
式典に参加したフィリピン国立歴史委員会委員長のレネ・エスカランテ氏(Rene Escalante)は、「慰安婦」の苦しみの記憶を保存するために記念碑が建てられたと述べています。
一般市民(ニュースのインタビューを受けて)は、「この像の建立によって人々の理解を促すことができるので、とても大切なことと受け止めています」など、歴史認識の大切さを再確認している様子が伺えます。また、ニュースサイトの読者の反応は、「日本人は過去に起こったことを認めるべき」、あるいは「二回の原爆投下を許している日本のように、我々も日本の行為を許すべき」など発言がありますが、いずれにおいてもフィリピンでの歴史理解(フィリピンの歴史教科書には日本の占領期についてかなりのページが割かれている)をベースとしています。
フィリピンは日本の植民地だった1942年から1945年にかけて、約1000人のフィリピン人女性が強制的に「慰安婦」にさせられたと記録があり、Lila Pilipina(フィリピン人女性連盟)は、1990年代初頭から名乗りを上げた174人の「慰安婦」を記録しています。しかし、現在は彼らのうちわずかしか生存していません。
https://news.cgtn.com/news/3467444f30637a6333566d54/share_p.html
Duterte says comfort woman statue part of free expression
https://www.rappler.com/nation/193902-duterte-comfort-woman-statue-manila-bay-free-expression
DFA questions Manila execs on comfort woman statue
https://www.philstar.com/metro/2017/12/18/1769713/dfa-questions-manila-execs-comfort-woman-statue#zU8A8YGeHPpbeDgo.99
Voices: A movement for the Lolas
https://movementforthelolas.wordpress.com/
慰安婦問題とアジア女性基金
http://www.awf.or.jp/1/philippine-00.html
3月29日のニュースで「フィリピン人慰安婦像」という題名とともにデザインした人物の名前が書かれていた台座部分のプレートの文字が、3月28日までに何者かに消されていたことが報じられ、またしてもこの慰安婦像がニュースとなりました。
後者については、フィリピン国内では大きく報じられることはありませんでしたが、慰安婦像の建立は、フィリピンでも全国的に報じられました。とりわけニュースの焦点となったのが、政府側の対応でした。メディアを通じた報道を追ってみました。
フィリピンの従軍慰安婦像 |
フィリピンの慰安婦像
2メートルの高さの青銅の彫刻は、目隠しして頭にスカーフ、民族衣装フィリピニャーナを着た女性の像です。 この像はフィリピンを代表するアーティストの一人、Jonas Rocesさんによってデザインされました。近年、同氏は国民的英雄ホセ・リサールの約8メートルもの銅像や、法律家セシリア・パルマ、脚本家ランベルト・アベラナの銅像なども手掛けております。銅像の台座のプレートには、
MEMORARE - ANG BANTAYOG NA ITO AY ALAALA SA MGA PILIPINANG NAGING BIKTIMA NG PANG-AABUSO SA PILIPINAS NOONG PANAHON NG PANANAKOP NG HAPON (1942-1945). MAHABANG PANAHON ANG LUMIPAS BAGO SILA TUMESTIGO AT NAGBIGAY PAHAYAG HINGGIL SA KANILANG NARANASAN.
記念碑
この像は日本占領下(1942-1945年)で虐待の被害にあったフィリピン女性たちを象徴しています。彼女たちは自身の体験を語るまで長い期間を要しました。
慰安婦像、台座のプレートに書かれた文字。 |
台座の背後にLila Pilipina(フィリピン人女性連盟)をはじめ慰安婦像前のアロハホテルのオーナーマニュエル・チュアさん、第二次大戦中に中華系のゲリラグループに属していたディー・コン・ヒさんなど女性グループ、中華系のビジネスマン、Tulay Foundation. INC、WAI MING CHARITABLE FOUNDATION FUND LIMITEDなどの団体によって寄贈されたと記されています。実際のところは、マニュエル・チュアさんによるところが大きいとメディアは報じています。
慰安婦像はフィリピンの主要省庁とフィリピンの日本大使館があるロハス通り(Roxas Boulevard)のマニラ・ベイウォークに立っています。
待機中(客待ち)のカレッサがフィリピンの従軍慰安婦像の横に停車しています。 像のサイドには、ギャングのタギングのようなものが施されています。 |
反応
政府関係者の反応
この慰安婦像の建立を受けて、菅義偉官房長官は2017年12月12日の記者会見で、像の設置について「極めて残念なことだ」と会見で述べています。在フィリピン日本大使館を通じて日本政府の懸念がフィリピン外務省届けられ、同国外務省はエストラーダ・マニラ市長に書簡で、経緯を説明するよう求めました。それを受けてマニラ市長秘書官のエドワード・セラピオ弁護士は、マヌエル・チュア氏が率いる中華系フィリピンの団体によってこの像が建てられたと釈明。事前に財団は、彫刻の場所について市に書簡送っているものの市行政側は、Department of Public Works and Highways. (公共事業道路省)から許可を得るべきであると返答したとのこと。
公道における建造物は、Department of Public Works and Highways. (公共事業道路省)から許可を得なければならないのですが、この銅像は許可なく建立されたことがこのようなやり取りの中で明らかにされました。同省の関係者は、申請があったら却下していただろうとコメントしています。
メディアの報道を追っていくと、どこか責任の所在がどこにあるのかをなすりつけ合うもの、となっている様子が伺えます。
ドゥテルテ大統領は、憲法で保障されている自由表現の一部であるため、慰安婦像の展示は取りやめられないとし今年1月9日に会談した野田総務大臣にもその旨を伝えつつも、この問題は "国家政策には引き継がれていない"と述べています。
一方で、マニラ湾沿いに慰安婦像が設置された後、フィリピン外務省のアラン・ピーター・カイタノ外相は、フィリピンと日本との「長期的な」関係が危ぶまれていると警告しています。また「既に解決されたと思う問題を再び持ち出そうものなら、長期的な関係を強化することはできないであろう」とも述べています。
関係者からの反応
中華系フィリピン人のグループの共同代表を務めるテレシータ・アン・シー(Teresita Ang See)さんは、それらの政府の反応に対して「在フィリピン日本大使館は異議申し立てを行うことはその任務であるが、フィリピン政府が自分たちの立場を守ることはその任務!」だと、フィリピン政府、とくにカイタノ外相とエストラーダマニラ市長を批判。また、「友人や隣人を真剣かつ外交的に扱わなければならないことを理解しているが、これは不合理な要求に従わなければならないということを意味するものではない。 戦争犯罪は事実であり、これを否定することはできず、また否定すべきでもありません。」とコメントしています。柔らかさと女性らしい美しさが表現された芸術的な像だとおもいました。しかし目を覆っている女性の意味することを考えると心が痛くなります。 |
フィリピンは日本の植民地だった1942年から1945年にかけて、約1000人のフィリピン人女性が強制的に「慰安婦」にさせられたと記録があり、Lila Pilipina(フィリピン人女性連盟)は、1990年代初頭から名乗りを上げた174人の「慰安婦」を記録しています。しかし、現在は彼らのうちわずかしか生存していません。
実際に訪問してみて
マニラ湾沿いのロハス通りと並行しているアメリカ大使館からフィリピン・文化センター(CCP)までの2キロほどのマニラ・ベイウォークは、約10年ほど前までは屋台などであふれていたにぎやかな場所でした。ひととき取り払われた屋台なども2014年から復活した!
と聞いていたものの、著者が訪れた土曜日の夕方は、マニラ湾から臨む夕日を楽しむカップル、ジョギングやサイクリングの場所となっており、依然と比較すればまったく静かな場所でした。
その場所の静かさと像を巡る関係者間の緊張状態やのギャップを感じました。このギャップが解消される日がおとずれるのか、慰安婦たちが高齢化する中で彼らが望む形で解決なされることを強く願わざるえません。
と聞いていたものの、著者が訪れた土曜日の夕方は、マニラ湾から臨む夕日を楽しむカップル、ジョギングやサイクリングの場所となっており、依然と比較すればまったく静かな場所でした。
その場所の静かさと像を巡る関係者間の緊張状態やのギャップを感じました。このギャップが解消される日がおとずれるのか、慰安婦たちが高齢化する中で彼らが望む形で解決なされることを強く願わざるえません。
アキノ大統領とアキノ上院議員の銅像 |
フィリピンには多くの銅像が建っています。慰安婦像のあるロハス通りには、ラモンマグサイサイ元大統領の記念碑、フィリピン大統領のマニュエル・ケソン大統領の像、さらにその通りを北上するとリサール公園のホセ・リサールの銅像が見え、さらにその先にはアキノ大統領夫妻の銅像があります。
それらの銅像と同様に、慰安婦像は市民の日常的光景として次第に溶け込んでいくでしょう。しかし像の持っているテーマは見る人の心に何かを訴えかけるのではないかと思います。
マニラ湾からの美しい夕陽、そしてベイウォークでの楽しいひとときもいいのですが、同地訪問の際は是非像まで足を延ばして見るのもよいのではないでしょうか。
それらの銅像と同様に、慰安婦像は市民の日常的光景として次第に溶け込んでいくでしょう。しかし像の持っているテーマは見る人の心に何かを訴えかけるのではないかと思います。
マニラ湾からの美しい夕陽、そしてベイウォークでの楽しいひとときもいいのですが、同地訪問の際は是非像まで足を延ばして見るのもよいのではないでしょうか。
後日談
4月28日に関係者への通知が無く、撤去された模様。理由は道路工事のためとされていますが、事実は異なる様子。フィリピンにおける日本占領期を知るための資料
アカデミックな視点で、日本の占領期を説明している資料としておススメです。8章で構成されているため、一章ごとに苦なく(!)読み進められます。
関連ブログ
[フィリピン博物館] 街おこしのための戦争博物館?!:イラガン日本トンネル参考ウェブサイト
'Comfort women' statue unveiled in the Philippineshttps://news.cgtn.com/news/3467444f30637a6333566d54/share_p.html
Duterte says comfort woman statue part of free expression
https://www.rappler.com/nation/193902-duterte-comfort-woman-statue-manila-bay-free-expression
DFA questions Manila execs on comfort woman statue
https://www.philstar.com/metro/2017/12/18/1769713/dfa-questions-manila-execs-comfort-woman-statue#zU8A8YGeHPpbeDgo.99
Voices: A movement for the Lolas
https://movementforthelolas.wordpress.com/
慰安婦問題とアジア女性基金
http://www.awf.or.jp/1/philippine-00.html
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