本当にコワイ狂犬病ーフィリピン滞在中、犬は注意すべし!

日本では1950年に狂犬病予防法が制定されて飼い犬に予防接種の義務を課し7年後狂犬病は撲滅しました。その後1970年ネパールで狂犬病にかかった邦人が亡くなりましたが36年の間、日本国内で狂犬病という名前を聞くことはありませんでした。しかし、2006年にフィリピンから帰国した男性が2名狂犬病を発症して亡くなり、再び狂犬病はまだ世界で多くの犠牲者を出している感染症の一つだということが日本で再認識されました。

フィリピンでは犬がよく徘徊しているため、そうした被害にあう可能性がいつもあります。狂犬病とは一体どういった感染症なのか、フィリピンではどういう状況なのか、何に気をつけたらよいのかをまとめました。
ビコール地方の街並み
フィリピン、ビコール地方の街並み
犬の放し飼い、特に夜間!多しです。

狂犬病とは

英語では、Rabies。5万人以上が死亡する人畜共通感染症で、ウィルスが感染動物の唾液に含まれるため、それらの動物にかまれる、あるいは舐められることで神経系の細胞に感染をおこします。

ウィルスの到達状況によって発症時期かわります。ウィルスが中枢神経にすぐに到達した場合は10日目あたり、末梢の神経線維に感染した場合には数年後に発症するということもあるようです。

発症すると高熱、麻痺、強い不安感、水を見ると首(頚部)の筋肉がけいれん(恐水症)、冷たい風でも同様にけいれん(恐風症)、運動失調、全身けいれんが起こります。その後、呼吸障害等の症状を示し、死亡します。発症したら治癒は不可!*発症後の致死率はほぼ100パーセント。

*かつて発症後にも関わらず特別な治療法で生還したアメリカ人女性がいますが、彼女に試した治療法は他の患者に有効ではなかったようです。

全ての哺乳類が感染動物となりえます。しかし、アジアでは犬が主な感染源。
アジア及びアフリカでは、イヌ、ネコ。西欧諸国及び北米ではキツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ネコ、イヌ、中南米ではイヌ、コウモリ、ネコが主な感染源となり、狂犬病で気をつけるべきは犬だけではない!ことがわかります。ちなみにヒトからヒトに感染はないようです。フィリピンでは犬からの感染が全体のお97.1パーセント、猫からの感染が2.9パーセント。

フィリピンの狂犬病

狂犬病で亡くなる人の件数が多い国のトップ10に入っているフィリピン。ランキングは以下の通り(Rabies Deathsより)。データは最新のものではありませんが、年間で200~300人の人がフィリピン国内で狂犬病で死亡しており、世界的に見ても少ないとは言えません。

1位 インド
2位 パキスタン
3位 中国
4位 バングラディシュ
5位 ベトナム
6位 ミャンマー
7位 フィリピン
8位 スリランカ
9位 インドネシア
10位 ウガンダ

Rabies Deaths
http://www.worldmapper.org/posters/worldmapper_map237_ver5.pdf

世界保健機構(WHO)によると2011年には202件、そのうちの約3分の一が15歳以下の子ども。そして、地域別にみるとリージョン5(ビコール地方)では26件の狂犬病のケースが報告されています。

フィリピン、ルソン島のパンガシナン州では、9,037件の動物にかまれたという報告があり、そのうちの19件で狂犬病の発症が見られました(2015年)。発症件数も注目されることながら、動物にかまれるという件数も多いことがわかります。

なぜフィリピンで狂犬病が多いのか?

飼い犬に予防接種の義務があるものの強制力がないこと、犬が放し飼いであること大きな理由であると思われます。

上記のような背景にはフィリピン人の犬への認識が日本や欧米とは少々異なるという点にあります。フィリピンで犬はペットとして飼われている場合もありますが、家族を守る番犬として認識されていることが多いようです。

番犬として家の外につながれた鎖も短いため犬は自由があまりききません。身体を洗ってあげて、散歩にも連れて行くというような基本的なことすらしない飼い主もかなりいます。

フィリピンに滞在して際近所に犬は多かったのですが、飼い主が散歩に連れていく姿を見たことはほとんどありません。数回だけ見たことがある散歩は家の前に5分ほど出ただけもの。犬のストレスも相当なもので、毎日吠えていました。

犬への狂犬病の予防接種は義務です。しかし、特に貧しい家の場合はお金をかけての予防接種などは考えもしません。政府が一年に一回あるいは数年に一回無料で狂犬病の予防接種をしますが、お金のない家はそれまで待たねばなりません。

また、散歩に連れていく手間を省き、なおかつ番犬の役割を果たさせるべく、夜間・早朝は犬を放し飼いにするという家もかなりの数おります。これらは条例で禁止されている行為です。ですので、市などに報告すると飼い主にその苦情が行くのですが、近所隣りが同じことをしているため、通報するということはあまりないようです。

このため、著者は噛まれたことはないものの幾度となく早朝・夜間の通勤・帰宅時に犬に全力で追いかけられたことがあります。自転車で全力疾走し、逃げ切りました。キモを冷やしました。

狂犬病予防策

とにかく、危険を避けることが重要です。

犬の放し飼いは田舎に多いので、早朝・夜間はふらふらと出歩かない。どうしても出かけなければならない時には、ローカルの人たち一緒に出かけること。犬除け対策に傘など長い棒状のものを持つこと。そしてなにより、犬猫に触らない。動物が好きな人にとってはつらいですが、触らぬこと、近づかぬことが大切です。



狂犬病のワクチン(暴露前接種)は打つべきか?

専門家の先生曰く、動物に関わる仕事あるいは、最寄りに病院がないような場所に長期で滞在する場合は打っておくの良いと助言をうけました。しかし、過剰に心配することがないようにとのこと。また、ワクチンを打っても咬まれたあとは、更に3回注射をしなければならないので注意が必要です。

国内の病院、あるいはフィリピンの日本人クリニックでもワクチンの接種は可能です。
日本人会クリニック(マニラ)https://jami.ph/wp-content/uploads/2017/06/VACC%E3%80%80Apr1-2017.pdf
*お値段は2,800ペソと決して安くはありません。

万が一咬まれてしまったら

考えたくはありませんが、上記のデータが示す通り、年間でかなりの人が動物に咬まれています。そうしたらまず、やるべきことは2つ。

・奇麗な水で傷口を洗う
・早急に病院に行きワクチンを接種する
・咬んだ犬を覚えておく

事前にワクチン(暴露前接種)を受けていないケース
咬まれて24時間以内にヒト抗狂犬病免疫グロブリン(HRIG)の咬傷部位への局所注射と細胞培養の狂犬病ワクチンの接種が必要となります。
狂犬病ワクチンの接種は5回(0日、3日、7日、14日、28日)。

事前にワクチン(暴露前接種)を受けているケース
接種は3回(0日、7日、21~28日)で、3年間の免疫が持続します。
この3年間のうちに咬まれた場合には、2回の追加接種(0日、3日)をします。
抗体ができているのでヒト抗狂犬病免疫グロブリン(HRIG)の注射は必要ありません。

なぜ咬んだ犬を捕獲する・覚えておくことが必要か
飼い主の責任問題もありますが、犬が狂犬病の症状を見せていないかを確認することは大切です。狂犬病にかかった犬狂騒型では、極度に興奮し攻撃的な行動を示し、また麻痺型では後半身から前半身に麻痺が拡がり、食物や水が飲み込めなくなります。これらが確認されたら、その犬は確実に狂犬病のウィルスを持っています。
しかし、そうした症状が現れないからといってワクチンを接種しなくてよいというわけではありませんので、動物に咬まれた、引っ掻かれた等があればすぐに最寄りの信頼できる病院でワクチンを接種してください。

帰国後は必ず、保健所や医療機関に相談し、必ずワクチン接種を回数分終えること。
検疫所のホームページにあるデータベース(http://www.forth.go.jp/moreinfo/vaccination.html)でワクチン接種が可能な病院を紹介しています。データベースに接種を受けたい病名をクリックし、県名を選択すると、病院のリストが出てきます。これで探すと、神奈川県には2017年10月現在6件対応してくれる病院あるいはクリニックがあることがわかります。

関連ウェブサイト:「フィリピンの医療(6) フィリピンで病気になったら?ー首都圏マニラの病院とその利用ー

犬にはご注意!

邦人旅行者が不幸にも狂犬病で亡くなられましたが、もちろん多くはフィリピン人の発症件数です。狂犬病が発症すると、その症状のゆえに町の人が知るところとなります。
フィリピンで狂犬病の予防接種はとても高価で、咬まれただけで病院に行くということはなかなかできないという家庭が多いのも事実です。

いずれにしても犬や猫に咬まれたり引っかかれたりすること無く、健康でフィリピン滞在を楽しんでほしいと思います。

参照ウェブサイト、文献

厚生省ウェブサイト 狂犬病
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/index.html

GIDEON Informatics, Inc.、Stephen Berger博士
Rabies: Global Status: 2017 edition p290



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