なぜ?怖がりなのに怖い話が大好きなフィリピン人

「リング」、「呪怨」、タイのホラー映画「心霊写真」、顔を手で覆いながらも、どうしても観たいフィリピン人友人。

ホラーな写真
これ、私です。



怖いならやめたらいいのに。そして、私を巻き込まないでほしいと思ったことしばし。ホラー映画を目をつぶって観ながら、私に途中経過を聞くのをやめてー(ホラー映画を観たあと寝られなくなります)と叫ぶこともしばし。嗚呼、フィリピン人友よ。

しかし、彼らは好きなのです。そして、彼らはハリウッドのリメイクやスプラッター系ホラーよりもアジアの得体のしれないぞくぞくするようなホラーを好む「玄人」です。

「あんたも好きねぇ」の一言で片付けず、なぜ好きなのか考えてみました。

理由その1:信心深い国民性

個人の趣向と一言で片づけらないと私は思っています。スピリット(植物、自然に宿る)や幽霊を信じる国民性の故だと思っています。

フィリピンに存在する妖怪はどちらかと言うとキリスト教の影響を受け、善悪のはっきりした悪魔のような様相をしており、日本の妖怪の持つ性質とはことなりますが、非常に興味深いです。

時にフィリピン人との会話で登場する妖怪。海で泳いでいる子どもに「ショコイがそこにいる」と脅かしたり、夜更かしをする子どもに「アスワンがくるよ」といい、早く寝かせようとしたりと、子どもの躾の文脈で聞きます。よく聞く妖怪は以下。

アスワン(Aswang)
ヴァンパイアで、日中は人の姿をしているが、夜になると怪物の姿に変身し人間、とくに妊婦を好んで襲います。妊婦の住む家を見つけ、その屋根から舌を糸のように細く伸ばして子宮に入れて胎児を食べてしまいます。


マナナンガル(Manananggal)
これもヴァンパイアの一種、上半身を下半身から切り離して飛行して、人間を襲います。この妖怪も胎児を好んで食べるのだとか。この話をもとにした映画を見たことがありますが、いつも突っ込みたくなるのが、下半身を探して攻撃しないのか?という点。

ティクバラン(Tikbalang)
馬の頭に人の胴体、そして馬の足を持つ。女性をレイプするために夜に徘徊する。被害に遭った女性は更にティクバランを産むことになる。

ショコイ(Siyokoy)
マーマン、人間の形と鱗に覆われた体を持つ海の生き物。彼らは人間を襲い、食します。

実は、近年のニュースで田舎で起こった10歳の女児が死亡した事件で、アスワンに襲われたと親族は証言しています。
興味深いのが、しばしフィリピン人の会話に登場する上記の妖怪たちはかなり「性」というものに関わっていると思います。これは、フィリピン人の性に関する戒めや、タブーと密接なのでしょう。また、ティクバランはスペインがフィリピンを占領している時代に広がったと聞きます。

また、フィリピンには心霊外科手術(スピリチュアル・サージャリー)などもあり、その術は実は私も経験し、こんな世界があるのかと大変驚きました。心霊治療を体験するまで、失礼ながらインチキくさいと思っていましたが、そんな考えがぶっ飛びました。


理由その2:自然との距離


少数民族のコミュニティにはシャーマン/ヒーラーがおり、自然との媒介となっています。かれらのコミュニティに行ったときにグループの一人が病気になりました。
病院が遠く、コミュニティのリーダーのヒーラーに一度診てもらったらいいというアドバイスを受けました。

病人本人の意向もあり、ヒーラーと対面。すると彼女は、グループが自然を踏み荒らすので、怒った土地のスピリット(精霊)によって引き起こされたと診断。外国人で、よそ者の私はそういうものなの?と彼女の診断を理解するのに時間がかかりますが、同行したフィリピン人はふむふむとヒーラーの診断を聞いて、すんなり理解そして合意。

また、NGOで活動をしているとそうした人たちと一緒に仕事をします。彼らに土地の霊を鎮める儀式をしてもらったことがあります。皆が見守る中で、鶏を捧げます。民族の伝承で、鶏が平和のために犠牲となったという話があり、彼らにとっては鶏は平和、和解のシンボルと聞きます。

タラアンデ―ンのシャーマンによる儀式
タラアンデ―ンのシャーマンによる儀式
シャーマンの儀式と言うとまがまがしい感じもしますが、シャーマンである女性も非常に柔和で、
とってもチャーミング。ダンスなどを教えてもらいました。


しかし、これはフィリピン特有と言うわけではなく、世界各地の土地の自然の理解と解釈の仕方の一つ。(日本でも土地の神様が怒った、祟りがある!などという言い方をします)

理由その3:街灯がない田舎町

真っ暗な道。気をつけないと田んぼに落ちるのではないかと感じてしまいます。田舎に行くと、こんな街灯がない道や場所はざらです。日本で、妖怪や幽霊の存在が町から消えた理由は、都会の灯りといわれますが、これはここフィリピンでも同じ。不夜城と化した、大都市マニラでは感じられない何らかの気配を街灯のない田舎道などで感じます。


理由その4:心霊スポットがある


一例として、北部ルソンのDiplomat Hotel。別荘として建設された同建物は、第二次大戦中は日本軍の司令部がおかれました。戦争により破壊されましたが、のちに修築され、ホテルとして開業。しかし、従業員やゲストが不思議な音を聞く、あるいは首なしの霊を見たという目撃談が相次ぎます。一時閉鎖されたホテルはその後、政府によって歴史地区として認定されます。

マニラのフィルムセンター、マラカニアン宮殿、ケソン市Balete Drive、コレヒドール島の病院などなど。また、フィリピンの北部、ダバオのトゥバで日本兵の霊を見た、あるいは集団憑依などの事件が報告されてます。

理由その5:先祖を敬う信仰心

フィリピン諸聖人の日
亡き義父に語りかける義母


墓場でピクニック?- 家族で過ごすフィリピンの諸聖人の日(All Saints' Day) にも書きましたが、フィリピンのお盆にあたる諸聖人の日は、フィリピン人の先祖や霊を敬う習慣としてとても象徴的でる。
休日である11月1日は、家族でご先祖様のお墓を訪れ、場合によっては食べ物を持ち込み、ピクニックのようにして数時間~一日過ごす場合もあります。

ある種、亡くなったご先祖様を生きているように扱っているようにすら感じます。彼らがそこに“いる”ことを前提としています。なので、死者に語りかけ、そして死者の声を聞こうとします。こうした風習の中で育つと、死者の世界があること、そして彼らが実は我々まだ生きているものの身近に訪ねて来ることがあると自然と感じるようになります。


最後に

人間の好奇心が多いに刺激される怪談ですが、これは「この世」と「あの世/別の世界」があるという前提のもとにあります。カトリックが多いフィリピン人、そして人口数パーセントを占めるイスラム(現在ムスリムが増えていっています)、その他の宗教諸派もそれらを信じております。

そうした強い一神教を信仰として実践しつつも、民間伝承が生きるフィリピンでは、怖い話は話で終わらず、日常と彼らの人生の延長となっていると感じます。日常の延長を知ることで、よい人生を送るということを意味しているのかもしれません。

ちなみに、私が現在生活しているオランダで「幽霊が出てコワイ」なーんてをしたら、鼻で笑われそうです。


参考
Did ‘aswang’ kill this 10-year-old girl in Davao del Norte?

ABS-CBN News Mangingisda kinagat ng aswang? (Video)

ABS-CBN Babae, pinatay umano ng aswang (Video)







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