グッドガバナンスのショーケース、MUSEO NI JESSE ROBREDO(ロブレド博物館)ビコール、ナガ市

フィリピンにグッドガバナンスなるものはあるのか?

グッドガバナンスの重要な要素として、(1)法の支配、(2)公共部門管理、(3)腐敗の抑止、(4)過剰な軍事費の削減が挙げられています。

現大統領ドゥテルテ氏の麻薬撲滅戦争という法の支配を無視した問題多い政策をニュースを聞き、過去にはマルコス独裁政権があり、大統領やその取り巻きが権力を私物化し貪ってきた歴史があります。また、近年ニュースとなったポークバレル、同族の斡旋、選挙前の不正から、市民の税金で作られた建物に自らの名前を入れたりとやりたい放題です。

腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index, CPI)*でフィリピンは、178か国中101位(ちなみに日本は20位)と、決してよい成績ではありません。

そんなフィリピンの政治環境にありながら、汚職を可能な限り退け、クリーンな市政を実現しようとしている地域があります。その一つがビコール地方のナガ市。グッドガバナンスの伝統を打ちたてたのが、現フィリピン副大統領のレ二ー・ロブレド氏の夫、故ジェシー・ロブレド内務自治長官です。
MUSEO NI JESSE ROBREDO(ロブレド博物館)の肖像
MUSEO NI JESSE ROBREDO(ロブレド博物館)の入り口に描かれたロブレド氏の肖像

ロブレド内務自治長官が飛行機事故で亡くなって5年目の2017年8月18日、ナガ市はフィリピン国家歴史委員会の協力の元、ロブレド氏の築いた良き政治の伝統を展示した、博物館をナガ市の市役所近くにオープンしました。

MUSEO NI JESSE ROBREDO(ロブレド博物館)

MUSEO NI JESSE ROBREDO(ロブレド博物館)の入り口
MUSEO NI JESSE ROBREDO(ロブレド博物館)の入り口
Matino, Mahusay, Matapatの文字が、ロブレド氏の銅像の後ろにあります。

自然との調和が美しい近代的な建物の入り口には、ロブレド氏の銅像が置かれ、入館者を出迎えています。ジェシー・ロブレド氏の良き政治の伝統を今後同市や市民が学び、引き継ぎ、発展させていくためのショーケースです。4つのギャラリーからなるこの博物館は、ロブレド氏の生い立ち、ナガ市長時代の業績、内務自治長官就任後、そして不慮の死を遂げたあの飛行機事故などが時系列で展示されています。

ロブレド市長の業績

博物館の目玉は、やはりナガ市の市長時代の業績に焦点をあてた、ギャラリー2ではないでしょうか。ロブレド氏は計6期19年もの間、市長を務めました。この間、アジアのノーベル賞とも呼ばれるラモン・マグサイサイ賞の受賞をはじめ様々な賞を受賞。その市政運営手腕はフィリピン国内外で高く評価されてきました。
マグサイサイ賞のメダル
ロブレド博物館に展示されているマグサイサイ賞のメダル

市財政を税収拡大と歳出見直しによって建て直し、貧困層への様々な支援プログラム(小規模生業への低利融資など)、NGOや住民組織との積極的な対話、商業活動振興のためのインフラ整備なども行いました。

もちろん、それらは政治マシン運営の一環ともなっているものの、ロブレド氏のマシン運営はバランスのとれたもので、影響力を維持するための「出資」は市民、とりわけ貧困層に裨益しました。

ロブレド市長の人柄

ロブレド夫妻が描かれたパネル
ロブレド夫妻が描かれたパネル

博物館のブースには、家族や職場で長く同氏と仕事をした同僚、近所の人が彼の人柄を語るビデオの視聴が可能です。家庭人として家族を大切にし、忙しい中でも家族と食卓を囲み、離れている時には手紙などを書いて送っている。市長室は市民に開け放たれ、アポイント無しで市長に会うことができるようになっていました。
ロブレド氏のインタビュー
ロブレド氏のインタビューがホログラムで流れている

ゴムのサンダルでコミュニティを回っており、サンダルが彼のトレードマークとなりました。自転車で町をサイクリングしたりととにかくナガという町を歩き、市民の生活を知ることを心がけていました。政治的なパフォーマンスと言ってしまえばそれまでですが、実際に市民の生活は向上し、市民は彼とその政治を信頼しました。
Jesse Robredo ID, Uniform
ロブレド氏の市長時代のユニフォームと愛用のビーチサンダル、そしてID(実物)
MUSEO NI JESSE ROBREDOの入り口オブジェ
博物館入り口の黄色いテーブルは実は、ビーチサンダル
これは、上から見ないとよくわからない仕組みとなっている。

飛行機事故

ロブレド氏を乗せたセスナの墜落事故は2012年の大きなニュースでした。ロブレド氏はセブで行われた会議に参加後、家族に会うべくセスナ機をチャーターしました。セスナはナガ市に向かう途中、マスバテ州沖の海上で墜落し、4人の搭乗者のうちロブレドを含む3名が亡くなりました。

事故当初は陰謀説などもささやかれましたが原因は整備ミス。右エンジンの不調が飛び立ったあと発覚、その後セブに戻ろうとするもかなわず、マスバテ空港に緊急着陸を試みるも、空港から数百メートルの海上に墜落しました。
ロブレド氏の飛行機事故についての展示
事故の経緯、調査、その後の様子が写真、実際の持ち物が展示されている

事故から3日後、ジェシー・ロブレド内務自治長官(54)の遺体が海底に沈んだ機体の中で見つかりました。発見された日は21日と奇しくもニノイアキノデーでした。

受賞

アジアのノーベル平和賞と言われる、マグサイサイ賞の受賞の他、ケソン・サービス・クロス(Quezon Service Cross)も死後に受賞。フィリピンに奉仕した人におくられる、フィリピン国内で最も栄誉ある賞で、1946年以来ロブレド氏を含めて5人にしか授与されていません(5人の受賞者のうち3人は死後に受賞、ニノイ・アキノ上院議員もその一人)。

博物館の所感

この博物館の建立がどれぐらいの期間練られたものであるのかはわかりませんが、著者が予想するに、レ二ー・ロブレド氏が副大統領として当選し、地元でその彼女をサポートする動きが強まっている中で、計画され、建設されたものと見ています。

そうなると、これも現政権に対する反応の一つとして考えられます。ドゥテルテ氏も20年ほどダバオ市政を担ってきました。しかし、上記に示すグッド・ガバナンスの要件を考えると、これから先にその文脈でダバオにドゥテルテ博物館なるものが建つ可能性は少ないように思えます。

このように政治という文脈でこの博物館の建立を理解することができますが、それだけではなく実際、開発を意識し、強いリーダーシップ、そしてクリスチャンとしての強い道徳観を持って市政に望んだ人物がいること。また、そのモデルを作ったことを市民に広く知ってもらうこと、これらの実現が不可能でないことを示すことは大きな意義があると思っております。

地域意識が強いフィリピン人にとって、こうして傑出した人物がビコールから出たことを誇らしく思うことは間違いありません。ナガ市を訪れた際は是非お立ち寄りを。

Museo ni Jesse Robredo 博物館情報

入場料:無料!
所在地:4400, Lungsod ng Naga, 4400 Camarines Sur, フィリピン
時間:8:00-16:00
休館日:月曜日
Facebook:@JesseRobredoMuseum
インスタグラム、ソーシャルメディア:#museonijesserobredoあるいは#RobredoMuseum

関連ブログ


参照ウェブサイト

外務省、グッドガバナンスを巡る国際的潮流
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/governance/index.html

トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)
https://www.transparency.org/news/feature/corruption_perceptions_index_2016


*トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が、毎年公開している各国の汚職度を数値化、国際比較したもの。

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