会議は踊るされど進まず。これはナポレオン後の体制を話し合う「ウィーン会議」の際にシャルル・ジョゼフ・ド・リーニュ侯の言葉。現在行われているドゥテルテ大統領の超法規的殺人を問う公聴会を見ながら、上記の言葉を思い出しました。公聴会、見世物であるが故、進みません。
ドゥテルテ大統領が、ダバオ市長であった(1988年2月2日 – 1998年3月19日、2001年6月30日 – 2010年6月30日、2013年6月30日 – 2016年6月30日)22年の間にダバオ・デス・スクワッド(英語: Davao Death Squads、ダバオの死の部隊以下、DDSと表記)と呼ばれる自警団と共に超法規的殺人に関与したかなり濃厚な疑いがもたれています。
疑いというよりは、公の秘密というべきでしょうか。現在フィリピンで全国的に展開している麻薬摘発の取り締まりは、ダバオのDDSを全国展開したような様相です。2016年9月現在で3,000人以上の死者を出していますが、その半数以上は警察権力によらないものです。
公の秘密。こうした件には証拠が必要です。証拠は信頼できる証言者の存在と物証が必要です。ただ証言などしたら、自らの命の保証がないので誰が証言者になるのか・・・そんな中現れたのが、マトバト氏でした。
マトバト氏とはだれか
カフグと言われる民間人による準軍事組織に属していたが、のちにリクルートされ、DDSのメンバーとなりました。ドゥテルテ市長(現フィリピン大統領)時代、ダバオ地域における数々の殺人事件に関与したことを本人が認めています。
マトバト氏による証言
ドゥテルテ市長は、DDSの背後におり、市長時代1,000人の殺害に関与しているというもの。ターゲットは犯罪者、とりわけ麻薬の元締め、レイプ魔、ひったくりなどで、毎日そうした“犯罪者”を殺害していたといいます。また、市長の息子パウロも殺害をDDSに指示していたとの証言もあります。一例として、犯罪者でもなんでもない人物をガソリンスタンドでいざこざがあったというその個人的理由だけで、DDSに殺害の指示をだした、などです。
なぜ捕まっていない?そして、なぜ今証言台に立とうとしたのか?
警察によって保護されていたため、捕まっていないといいます。これが事実であれば、警察による組織的関与はもはや疑いの余地のないものとなります。
2013年にDDSをやめたいと思っていたが、抜けさせてもらえず、結局命を狙われることに。その後、転々として、神父などのサポートを受けた様子。多くを知りすぎて、しまった・・・ということらしいです。誰からサポートをうけたのか、それはその助けてくれた人を危険にさらさぬためにマトバト氏が口にすることはないでしょう。
重箱の隅をつつくような質問
マトバト氏が、ドゥテルテ大統領が警察に殺害を命令したと証言すれば、それをマトバト氏本人に対して直接言っていないならどこで、どういう風にその命令を聞いたのかと質問。証言者は、同じ部屋で、ドゥテルテ大統領の命令を聞いたと証言。殺し方について、刺したと証言したマトバト氏に対して、議員は執拗に首にも切り傷があると警察の資料から反論し、マトバト氏の証言との不一致を指摘。
しかし、20年以上前に起こった出来事の詳細を人間はどこまで覚えているのかが疑問です。質問をする議員たちは当時の警察の資料を読みながら質問をしているのでしょうが・・・、そして、マトバト氏とてもシンプルな人で、彼にとってはナイフで刺すことも首元を切りつけることも言葉としては同じ「切る」を使ったということが容易に想像できます。
ドゥテルテ大統領をサポートする議員たちは、明確に答えるマトバト氏を混乱させるべく、さらに詳細な説明を求める質問を執拗に続けます。そんなこんなを繰り返し、証言者が「虚偽の証言をしている」と印象付けます。
心理的圧迫
大統領サイドのサポーターは高圧的に、執拗に質問をします。そして、マトバト氏終わらぬうちに焚きつけるように質問をし、マトバト氏を心理的に圧迫します。もし、大統領が無罪であると信じるならば、大統領派は何をそんなに焦って、心理戦に持ち込もうとするのでしょうか。
ボクシングの世界チャンプであり、議員のマニー・パッキャオも戦略的に公聴会に同席し、一貫しないマトバト氏の証言をつつきます。絶大な人気を誇るパッキャオを用いることで、国民にマトバト氏の発言の虚偽を印象付けようとする作戦です。
そもそもなんであなたが議員なのか、パッキャオ氏の議員資格を国民はつっこんでほしいですけどね。海外遠征でほとんど議会に出席しない“名誉議員”に給与を払うならば、きちんと働く有能な議員が彼の代わりに議席を埋めるべきでしょう。しかし、国民は彼を議員の椅子に留めようとします。ボクシングの世界チャンピオンというのは、それだけでかなり名誉なことかと思いますので、政界に進出しないでもらいたいと思うフィリピン人もかなりの数います。
私がyoutubeのライブ録画映像を見る限りでは、マトバト氏の証言は一貫しております。ただ、上記のごとく、大統領をサポートする議員たちが必要以上に証言者に揺さぶりをかけています。大統領サポーターには1000以上もの“失踪者”について、どう大衆に向けて説明できるのか、ぜひ伺いたいものです。
とにかく、公聴会が順調に進行し、証言者の安全が確保され、そしてそれら発言の実証が可能となり、公平な裁きがなされることを願うばかりです。
ちなみに9月26日号のTIMEの表紙はフィリピン、そしてeconomistも約1ページフィリピンについて書いています。
ドゥテルテ大統領政策関連のエントリー
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ダバオのワニ園 |
ドゥテルテ大統領が、ダバオ市長であった(1988年2月2日 – 1998年3月19日、2001年6月30日 – 2010年6月30日、2013年6月30日 – 2016年6月30日)22年の間にダバオ・デス・スクワッド(英語: Davao Death Squads、ダバオの死の部隊以下、DDSと表記)と呼ばれる自警団と共に超法規的殺人に関与したかなり濃厚な疑いがもたれています。
疑いというよりは、公の秘密というべきでしょうか。現在フィリピンで全国的に展開している麻薬摘発の取り締まりは、ダバオのDDSを全国展開したような様相です。2016年9月現在で3,000人以上の死者を出していますが、その半数以上は警察権力によらないものです。
公の秘密。こうした件には証拠が必要です。証拠は信頼できる証言者の存在と物証が必要です。ただ証言などしたら、自らの命の保証がないので誰が証言者になるのか・・・そんな中現れたのが、マトバト氏でした。
マトバト氏とはだれか
カフグと言われる民間人による準軍事組織に属していたが、のちにリクルートされ、DDSのメンバーとなりました。ドゥテルテ市長(現フィリピン大統領)時代、ダバオ地域における数々の殺人事件に関与したことを本人が認めています。
マトバト氏による証言
ドゥテルテ市長は、DDSの背後におり、市長時代1,000人の殺害に関与しているというもの。ターゲットは犯罪者、とりわけ麻薬の元締め、レイプ魔、ひったくりなどで、毎日そうした“犯罪者”を殺害していたといいます。また、市長の息子パウロも殺害をDDSに指示していたとの証言もあります。一例として、犯罪者でもなんでもない人物をガソリンスタンドでいざこざがあったというその個人的理由だけで、DDSに殺害の指示をだした、などです。
なぜ捕まっていない?そして、なぜ今証言台に立とうとしたのか?
警察によって保護されていたため、捕まっていないといいます。これが事実であれば、警察による組織的関与はもはや疑いの余地のないものとなります。
2013年にDDSをやめたいと思っていたが、抜けさせてもらえず、結局命を狙われることに。その後、転々として、神父などのサポートを受けた様子。多くを知りすぎて、しまった・・・ということらしいです。誰からサポートをうけたのか、それはその助けてくれた人を危険にさらさぬためにマトバト氏が口にすることはないでしょう。
マトバト氏が、ドゥテルテ大統領が警察に殺害を命令したと証言すれば、それをマトバト氏本人に対して直接言っていないならどこで、どういう風にその命令を聞いたのかと質問。証言者は、同じ部屋で、ドゥテルテ大統領の命令を聞いたと証言。殺し方について、刺したと証言したマトバト氏に対して、議員は執拗に首にも切り傷があると警察の資料から反論し、マトバト氏の証言との不一致を指摘。
しかし、20年以上前に起こった出来事の詳細を人間はどこまで覚えているのかが疑問です。質問をする議員たちは当時の警察の資料を読みながら質問をしているのでしょうが・・・、そして、マトバト氏とてもシンプルな人で、彼にとってはナイフで刺すことも首元を切りつけることも言葉としては同じ「切る」を使ったということが容易に想像できます。
ドゥテルテ大統領をサポートする議員たちは、明確に答えるマトバト氏を混乱させるべく、さらに詳細な説明を求める質問を執拗に続けます。そんなこんなを繰り返し、証言者が「虚偽の証言をしている」と印象付けます。
大統領サイドのサポーターは高圧的に、執拗に質問をします。そして、マトバト氏終わらぬうちに焚きつけるように質問をし、マトバト氏を心理的に圧迫します。もし、大統領が無罪であると信じるならば、大統領派は何をそんなに焦って、心理戦に持ち込もうとするのでしょうか。
ボクシングの世界チャンプであり、議員のマニー・パッキャオも戦略的に公聴会に同席し、一貫しないマトバト氏の証言をつつきます。絶大な人気を誇るパッキャオを用いることで、国民にマトバト氏の発言の虚偽を印象付けようとする作戦です。
そもそもなんであなたが議員なのか、パッキャオ氏の議員資格を国民はつっこんでほしいですけどね。海外遠征でほとんど議会に出席しない“名誉議員”に給与を払うならば、きちんと働く有能な議員が彼の代わりに議席を埋めるべきでしょう。しかし、国民は彼を議員の椅子に留めようとします。ボクシングの世界チャンピオンというのは、それだけでかなり名誉なことかと思いますので、政界に進出しないでもらいたいと思うフィリピン人もかなりの数います。
本文とはあまり関係ないのですが、暑さにばてる猫 |
私がyoutubeのライブ録画映像を見る限りでは、マトバト氏の証言は一貫しております。ただ、上記のごとく、大統領をサポートする議員たちが必要以上に証言者に揺さぶりをかけています。大統領サポーターには1000以上もの“失踪者”について、どう大衆に向けて説明できるのか、ぜひ伺いたいものです。
とにかく、公聴会が順調に進行し、証言者の安全が確保され、そしてそれら発言の実証が可能となり、公平な裁きがなされることを願うばかりです。
ちなみに9月26日号のTIMEの表紙はフィリピン、そしてeconomistも約1ページフィリピンについて書いています。
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