[書籍] フィリピン関連必読書― 炎熱商人(上下巻)

炎熱商人。これは、フィリピン滞在・関係者の必読書(主観的ですいません)です。NGOに務めていた時に同業の先輩からお借りして、上下巻一気に読んでしまいました。面白かったのはもちろんですが、物語の深さにぐっと惹きつけられました。


炎熱商人
これを読まずにフィリピンには行けない!炎熱商人(上)(下)


昭和46年にマニラで実際に起きた商社駐在員の殺害事件を元に書かれた直木賞受賞した小説。商社駐在員がゴルフの帰りにビジネスで怨恨がある相手からの急襲を受けて亡くなったという事件から着想を得て作られたフィクションです。

物語のあらすじ

商社鴻田貿易のマニラ事務所は、日本の高度成長に伴う建築ラッシュを受け、マニラから大量のラワン材を輸入しようと企画します。しかし、当時のフィリピン、物語の舞台は昭和40年代、日本に対する戦争の記憶が色濃く残る時期。苦労しながら、マニラ事務所長である小寺の人間力により、数々の問題を打開していきます。

現地でのヤクザまがいの相手に銃を突きつけられながらも、相手の立場、そしてフィリピンという国を思いやりながら交渉をしていく小寺に対して、本社はその苦労を無にするような要求を突きつけてきます。本社と現地での板ばさみになりながらも、何とか打開策を探る小寺支店長とその周りの人たちの物語は、フィリピン在住者のみならず、惹きつけられると思います。

さまざまな人物が織りなす物語

小寺支店長は、まさに理想に生きる人。一方、理想主義の小寺とは寄り添わず、我が道を行く本社から出向した鶴井。若くて、体育会系でシリアスな物語の中で唯一、笑わしてくれる三枚目キャラ的な存在の石山。現地スタッフで日本人とフィリピン人のハーフであるフランク、個性あるキャラクターたちを通じて戦中と戦後、富裕層と貧困層、理想と現実・・それが折混ざりながらも問題を提起しています。

著者は、本書を読んだ時、日本とフィリピンとの間で揺れる日本人の母とフィリピン人の父のハーフであるフランクに注目して読んでいました。日本軍に従軍した経験を持つフランク、日本人以上に日本的になりつつ、フィリピン人との間を揺れ動いていて、物語の対比の構図を深くします。

フィリピンの木材事業について

日本の高度成長期、フィリピンのラワン材は、ほぼ枯渇するまでに日本企業が伐りつくしています。1950年から1974年までのフィリピンの木材総生産量は1億8680万㎥であり、そのうち全体の64%にあたる1億1954万㎥(丸太)が輸出されています。
国土の70%もあった森林率は、今では20~30%といわれています。
1976年になってようやく丸太輸出禁止措置、1986年丸太輸出が完全に禁止されます。物語の中でも説明がありますが、ラワンは植栽不可能な樹種です。こうした伐採の結果、ラワンの原生林は3%を残すだけとなるなど、フィリピンの森林の減少、劣化は著しく進行しました。

戦中のフィリピン占領―終戦間際の様子

日本兵の残忍さも描かれています。現地から財も人の命すらむごい方法で奪いました。日本人の中にも日本兵の統治のやり方は間違っていると声をあげますが、戦争と言う狂気の季節、そんな声もかき消されます。

配戦の色が濃くなると、フィリピンに住む日本人は、山奥に疎開します。同時に抗日ゲリラの反撃も受けます。食料も尽きていくなか、身体は弱り、病気や飢餓で多くがなくなります。また、日本兵の多くは飢餓や病気で亡くなっています。
戦後は、フィリピンに残った多くの日本人、あるいは日本人とのハーフ、現地の日本人との関係者や協力者は、迫害を受け時に殺されました。迫害を恐れ、日本人であることを隠して育ったハーフもいます。

印象に残った台詞

戦後の日本人はね、フランク、あんたが戦時中、つきあっていた百姓上がりの連中とは、まるで違う人種なんだ。ちゃんと高等教育を受けた常識ある新種の日本人なんですよ。敗戦が日本人を根底から変えたんだよ(鶴井)


スペインは、宗教を、アメリカはインフラをフィリピンに残した。日本の軍政が残したものは、憎悪。奪うだけの日本人のイメージを変えないといけない。(小寺)



海外で我々が働いているのは何の為だと思う?それは、会社の為でもある、日本の為でもある、しかし、一番大切な事はその国の為に何か役に立つことをしようと考えないといけないのじゃないのかね。 (小寺)


物語のテンポがよく、特にフィリピンに一度でも来たことがあればはまり込んで上下巻もあっという間に読んでしまうにちがいなし。

ちなみに、かなり前のことですがNHKでもドラマ化されています。
小野寺は、緒方拳、石山は若き日の松平健です。

 
 フィクションとはいえ、リアル。そして、戦後、日比の関わり、二国の将来について考えさせられる良書。是非多くの人に読み、あるいは鑑賞してもらいたい作品です。

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