フィリピン関係者は絶対観るべし![映画]ルナ将軍(Heneral Luna)はNetflixで公開中!

「ルナ将軍(Heneral Luna)」は、フィリピン独立を目指してアギナルド大統領の下で戦ったアントニオ・ルナ将軍を描いた、事実を踏まえたフィクションの歴史ドラマです。近年のフィリピン映画の中では珍しく、幅広い層により鑑賞され、大ヒットしました。著者の周囲でも、映画館に2度通ったという人も居たほどで、強くフィリピン人の心を掴んだようでした。


映画の背景ー支配され、裏切られ、また支配されたフィリピンの近代史

1896年以降、革命組織カティプナンのメンバーたちはアンドレ・ボニファシオの指導の元、300年以上も続くスペインからの独立のために戦ってきました。しかし、革命勢力は分裂、自らも革命組織のメンバーであったエミリオ・アギナルドは、ボニファシオを逮捕・粛清しました。アギナルド率いる革命勢力は、スペインと休戦協定を結び、アギナルドは香港に亡命し、スペインからの独立戦争の第一幕が終わります。

1898年2月15日、ハバナ湾のアメリカ海軍の戦艦メインが爆発、沈没し266名の乗員を失う事故が発生を機に、米西が開戦しました。戦争は太平洋地域にも拡大し、スペインの植民地、フィリピンにも及びました。アメリカは戦争に勝つため、アギナルドに対して、スペインを打倒した暁には、フィリピンを独立させると約束しました。

アギナルドは亡命先の香港から帰国し、フィリピン独立戦争の再開を宣言し、米西戦争に参戦しました。アギナルドと再編成されたフィリピン独立軍はアメリカ軍から調達した武器を手にして戦い、スペイン軍を打倒します。この時に初めてフィリピン国旗が掲げられ、6月12日にカヴィテ州のカウィットで独立宣言がされ、アギナルドは(第一共和国の)初代大統領に就任しました。

一方、米西戦争に勝利したアメリカは、フィリピン独立の約束を反故にして、スペインから2000万ドルで、フィリピンを購入し、殖民地化をすすめていき、アメリカからの独立をかけた、米比戦争につながっていきます。



ルナ将軍という男

物語の主人公は、米比戦争では将軍として、戦い、最後は同胞の手により殺害されるという悲劇の国民的英雄、アントニオ・ルナです。

映画では、男気があり、自分に厳しく、人に厳しく、感情のまま、歯に衣着せぬ物言いが、多くの人から反感を買いました。ルナ将軍は、「傲慢だ」と陰口を叩かれ、本人もそれを知っているものの、フィリピンの独立という大きな目的のためには、気にもかけません。

そんなルナ将軍をたしなめるべく言った母親のセリフ
Some politician and businessmen don't like the way you run things. They say you are too arrogant and strict. They say you are mad with power.
 政治家やビジネスマンの中には、あなたのやり方が気に食わないという人もいるわ。あなたが傲慢で厳格すぎるとも・・。あなたが力に狂っていると言っているのよ。

ルナ将軍はそれに対して、
These are just rumors. Sometimes I have to step on some toes to get my job done.
そんなのはただの噂さ。やるべきことをするために、時々人を不快にすることもあるけどさ。
しかし、そんなルナ将軍を心配してやまない母親は、更に続けて・・・
I heard from Quinito that the President himself is plotting against you. ...Like Andres Bonifacio.
キニートが、大統領自身があなたに対して企てているっていうのよ・・・アンドレス・ボニファシオのように
「将軍」と言うからには、血気盛んな軍人気質と思いきや、実は当時のエリート層と同じく、スペインに留学し、薬学、文学、科学を学んだインテリ層でした。戦中でなければ、医師として、または文筆家として生きたかもしれません。

暗殺

規律を重んじるルナ将軍に反発する、地方の有力視族の子弟、軍人、司令官も多く、最後には、ヌエバ・エシハ州のカバナトゥアンで同胞の手で、銃とボロ(刀)でめった刺しにされ殺されてしまいます。

誰が殺害したのかはわかっていませんが、アメリカの新聞にはアギナルド大統領が将軍殺害に関与したことが示唆されます。大統領は関与を否定しており、またそれは、極めて単純過ぎる結論であると言われます。実際にはどうだったのかは、わかっていません。そして、彼の亡骸もどこにあるのかはわかっておりません。

ルナ将軍暗殺後、軍は規律を失い、統率力、求心力は喪失し、崩壊し、最終的には戦争に敗北しました。歴史に「もし」はないのですが、ルナ将軍がその後も生きていたら、おそらく、ゲリラ闘争という形で戦争は数年後も継続されてたかもしれません。それがフィリピンという国にとってよい結果をもたらしたのかはわかりませんが・・・

ルナ将軍を演じた俳優は、ジョン・アルシリャ(John Arcilla)当時50歳。貫禄の将軍を演じましたが、実は、ルナ将軍の年齢はわずか32歳。将軍という責任ある立場が彼を実年齢よりも年老いた男に見せていたことは確かでしょう。

映画からフィリピンという国の難しさを見る

敵は、アメリカ軍ではなく、フィリピン人同胞

将軍は、新生フィリピン社会の真の敵が何であるのかを知っていました。
The true sons of liberty will never allow themselves to be tied up like dogs.
They are worse than American, these who place their self-interest first, these who pledge allegiance only to their regions and their tribes. That is proof that we are not ready to rule ourselves. 
真に自由の息子たちは、自分が犬のように縛られることを潔しとはしないであろう。
彼らはアメリカ人よりもたちが悪く、自分の利益を第一に置き、地域と所属する民族だけに忠誠を誓う。それは、我々自身、自ら統治する準備ができていないことの証拠だ。
映画では、地域主義ー自分の出身地域、同じグループに属する人たちが恩恵を得るように、フィリピンという国の単位で考えられない地域権力者、自分の利益にのみしか興味関心のない人たちーアメリカ人とのビジネスができると喜んでいたエリート層ーが描かれます。

フィリピンという国は、スペインが占領するまでは、山を隔てれば、異なる村があり、村の長がおり、言語も異なるという状況が続き、統一国家としての歴史はありませんでした。占領によって異なる、地域、文化の人々がフィリピンという国に所属することになりましたが、それでも地域意識は変わらず残りました。言語グループによる、差別化、つながり、そうした傾向は今も残っています。

米比戦争は思う以上に酷い戦争であった

約4年間続いた戦争で、米軍兵士約4,500人、フィリピン軍兵士約20,000人、戦争とそれに関連した病気や飢餓などで一般市民は約25万人から100万人亡くなったと言われていますが、正確な統計はありません。一般市民の虐殺もありました。知られているのが、パランギガの虐殺です。

バランギガの虐殺
米比戦争中の1901年9月28日、サマール島のバランギガをパトロール中の米軍がフィリピン側の待ち伏せ攻撃を受けて、48名が殺害される事件が起きました。マッカーサー司令は報復として市民の皆殺しを指示し、島の10歳以上の男子が全て虐殺されました。犠牲者の数は2,000人から5万人とハッキリしてはいません。

なぜ、ここまでフィリピン人に支持されたのか?

フィリピン人の誇り、アイデンティティが刺激されたことが大きな理由かと思います。長い苦難の歴史の上の今であることがビジュアル、そして、ルナ将軍の言葉を通じて表現されたことでしょう。

ルナ将軍の考え方がよく現れているセリフ
Tell our countrymen that freedom was not achieved by caring for their loved ones. We need to pay the price. - Blood and sweat
同胞に伝えてほしい、自由は愛するものを大事にすることでは達成できない。その代償を支払わねばならないと・・・血と汗だ。

戦場に向かう部下と自分自身を鼓舞するかのようなセリフ
It is a great honor to fight for our country. We should not hesitate. Forward, compatriots. To conquer or die.
国のために戦えることは栄誉だ。ためらうな、前進せよ、同胞よ。征服か、死だ。

最後に

色々と書きましたが、まずは映画鑑賞をオススメします。ヒットした映画という以外に、歴史的背景を学ぶことができるよい映画だと思います。また、これは3部作の一作目、2018年にはGOYO(デル・ピラール)を主人公とした映画が公開されました。こちらもNetflixで公開中、是非合わせて観ていただきたいです。

歴史を学んだ上で、フィリピンを訪れると、フィリピンとフィリピン人を見る目が少々変わるのではないかと思います。

関連ブログ

参考ウェブサイト

Who really ordered Luna’s murder?
Where are Antonio Luna’s bones?

スポンサーリンク

スポンサーリンク

0 件のコメント :

コメントを投稿

Subscribe