[ニュース] ドゥテルテ大統領2度目の来日のお土産は?

フィリピンのドゥテルテ大統領が29日~31日に来日し、安倍晋三首相と4回目となる会談を行いシャトル外交*を維持していく構えを見せました。

共同記者発表の内容

今年一月の安倍首相の訪問の際、フィリピンの長期ビジョンである「AmBisyon Natin 2040」の実現を後押しするため、今後5年間で1兆円(90億ドル)規模の官民貢献策を具体化した共同声明を発表しています。フィリピンが中国に接近することに対して牽引する狙いもあるようです。この90億ドルの支援の分野は以下。

1) マニラ首都圏及び地方部におけるインフラ開発
マニラの慢性的な交通渋滞に対処するために以下のプロジェクトを日比共同で行う予定。
・鉄道事業
マニラ首都2圏地下鉄事業及び南北通勤鉄道事業の整備及び実施への協力。
日本政府は,事業総額約 8,000 億円(約 3,560 億ペソ)の地下鉄事業に対し,実際の資金需要に応じて,約 6,000 億円の円借款供与を真剣に検討する。
パンパンガ州クラークからラグナ州ロスバニョス間(約 180km)!!
・道路・橋梁整備を含む地方開発
・災害予防のためのインフラ事業
カビテ州産業地域での洪水リスク管理事業を迅速に実施するための協力。カガヤン・デ・オロ川洪水予警報整備事業,ダバオ治水・排水対策のためのマスタープラン・実現可能性調査事業,及びパッシグーマリキナ川河川改修事業の案件形成を加速するとともに,マニラ首都圏におけるパラニャーケ放水路整備事業について基礎調査実施を通じて案件形成を検討と具体的な案件形成



2) エネルギー
2017年3月に提案された「フィリピンの電力分野におけるアクションプラン」に基づいて次の協力事業が実施される。
・電力
フィリピン全土で質の高い発電インフラを導入するため,発電効率の改善及び電化率の向上のための協力が推進される。
・LNG(Liquefied Natural Gas)液化天然ガス
LNG受入基地および関連インフラの建設がバタンガスで計画されている。

3) 雇用の創出及び生活水準の向上
「フィリピン産業ビジョンの形成に向けた日本からの提案~『貧困層に誰一人取り残さない』ための産業発展シナリオ~」に基づき「大規模雇用の創出」,「高付加価値雇用の創出」及び「地方の産業振興による雇用の創出」の3分野に焦点を当てた具体的な方策の例

4) ミンダナオ
・マラウィ市及びその周辺地域の復興
・J-BIRDの強化

5) 公共安全
両国政府は,フィリピン共和国政府が0+10の社会経済政策主要項目を推進する上で重視する「法と秩序の尊重」を実現するため,公共安全の分野での協力を継続する。
・違法薬物対策
①違法薬物使用者の再使用防止,②違法薬物使用の未然防止及び③違法薬物使用の未然防止の文脈における貧困削減の分野に特別な注意を払って協力を行う。
・テロ対策/海洋安全対策
両国政府は,スルー・セレベス海を含む地域におけるテロ対策及び海洋安全対策の重要性が一層高まっているとの認識を共有し、沿岸監視能力を含め,フィリピンの海上保安機関の能力構築等の支援を行う。

6) 情報通信
・地上デジタル放送
・国家ブロードバンド計画

7) 環境
当該廃棄物発電モデルをその他の都市に展開するため,質の高い環境モニタリング及びセーフガードを含む廃棄物管理に関する制度設計並びに人材育成及び能力構築に関する支援。

8) 農業
フィリピンにおける農業機械化の推進及び農産物の流通システムの改善のための協力を強化。
9) 防災
洪水対策,気象観測及び予警報の分野において,フィリピンの中央政府の能力構築のために,幅広い技術支援を引き続き行う。

また、フィリピンが2017年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務めることへの支援を表明しました。
ポイントはいくつもありますが、官民で行うインフラ整備に力点が置かれていることがよくわかります。どの項目をとってもフィリピンとっては重要ですが、安倍政権は麻薬関連対策を公安の分野の課題として支援の対象としていますが、EUなど諸外国や人権団体が批判する「麻薬撲滅戦争」への直接の言及はしてない模様です。

安倍政権「麻薬撲滅戦争」には言及せず

JICAは2017年4月に「フィリピン保健省による違法薬物患者の治療体制・政策を強化」を目的とした18億5,000万円を限度とする「違法薬物使用者治療強化計画」無償資金協力の贈与フィリピン政府との間で決めました。

人権団体の懸念は、刑事責任が超法規的殺人に関連した警察官などに問われ無いことはもちろん、麻薬常習者の「治療」内容が医学的根拠に基づく治療介入よりも、強制労働や軍事訓練などのかたちで行われていることが、東南アジア諸国の治療施設の調査により明らかになっており、無償資金の供与がどれほど意義あるものとなるのかにも大きな懸念があります。

EUからの投資や援助を拒絶!しているという背景

諸外国とよい外交関係を築くことは、地域の安定にもつながりよいことで、日比の首脳の会談が定期的に行われているというのはよいことでしょう。しかし、その背後では、EUの投資や援助を拒絶するという国内外に大きな波紋を起こした発言・会見が今年の5月に行われ、10月にも同様なコメントを残しております。

10月19日のニュースで、ドゥテルテ大統領は人権という観点から「麻薬撲滅戦争」に反対するEUに対して、フィリピンの主権に対し敬意を表さぬ態度にくそくらえ!と言い、援助は必要なフィリピンだけど拒絶したと公の場で述べました。大統領は、「苦しんでも構わない。オレが民衆に言ってやる、我々は耐えないといけないと。我々は貧しいのだから。」と続け強硬な構えを見せました。

この大統領の発言に対して、外務大臣カイタノは、「彼ら(EU)から援助を受けないというのが今の国の政策、しかしそれらの国との関係は影響されるべきではない。大統領が言っているのは、新規でのEUから援助を受けるなということだ」と少々苦し紛れに対応する格好となりました。

「”小言”を言う」EUと距離をおきながら、「何も言わない」日本と良好な関係を築いていくのは、なんともです。

おまけ

晩さん会
フジテレビ系 連続ドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』主題歌を唄った、ラグーナ州出身のフィリピン人歌手のBeverlyさんが歌を披露。今後日本での活躍が楽しみな歌手。日本語も学んでいる最中なのだとか。

天皇皇后両陛下との謁見
前回三笠宮さまの逝去のために中止となった、大統領の天皇陛下と謁見が今回は実現。NHKのニュースによると25分の会見で天皇陛下が「先の大戦では多くのフィリピンの人たちが犠牲になりました」と述べられると、ドゥテルテ大統領は「両国は過去を乗り越えてすばらしい協力関係を築いてきました。戦後の日本のあらゆる分野の継続的な支援に心から感謝します」とこたえたそうです(NHKニュース7より)。
ドゥテルテ大統領が無礼をするのではないかと心配されていましたが(汗)謁見を無事に終えたそうです。
何かとお騒がせなドゥテルテ大統領ですが、今回の訪問の「土産」は多く、満足の訪日だったのではないでしょうか。

*シャトル外交:両当事国の間を頻繁に行き来して合意を形成する外交交渉。
sa

参考ウェブサイト

(全録)安倍首相、ドゥテルテ大統領と共同記者発表
https://www.youtube.com/watch?v=rhBIgHQ3VgQ

今後5年間の二国間協力に関する日フィリピン共同声明(仮訳)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000303416.pdf

フィリピン向け無償資金贈与契約の締結:違法薬物患者の治療体制・政策を強化し、違法薬物問題の改善に貢献
https://www.jica.go.jp/press/2017/20170403_03.html

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