フィリピンの大学で教える先生の事情―フィリピン大学教員の独り言

フィリピンで教員職のステータスは思いの外高く、少々驚きます。フィリピンは学歴社会、その供給場所である学校、そして知識の独占職にある教員の社会的地位の高さはある種納得できます。また、小学校・高校を含めての教員を目指す学生が多いのはそうしたフィリピン社会を反映しております。フィリピンで大学教員として教壇に立った立場で、彼らの事情を考えてみました。

フィリピンの大学教室の様子

週18時間(最短)の授業+学生との面談時間7時間半

大学によって異なりますが、正規雇用としての基準は18時間教壇に立つこと。1科目は通常だと週3時間授業なので、6教室の担当に。フィリピン大学とアテネオデマニラは12時間と聞きます。

しかし、地方校では大学の財源の事情から、雇える教員数も限られており一人の教師が受け持つ事業時間は最大30時間という事態も発生しています。

実際著者が受け持った最大時間数は週27時間。そして、教員は学生のために7時間半を面接などに費やすことを義務付けられています。勿論、全ての学生がそれを利用するわけではありませんが拘束時間、授業時間も大学教員としては長いように思います。

科目数

一人の教員は1科目~5科目ほど教えていたりします。新任教員が受け持つ科目数は最大3科目。はじめての学期、3科目担当しましたが、準備に追われ、きつかったのを覚えています。勿論、ベテランともなれば、何年も同じ科目を教えているので、新米教員ほどの苦労はありませんが、それでもちょこちょこと学問によってはアップデートがあり、きついことは確かです。

ひとクラスの学生数

著者の務めた大学では特定の科目は全員履修しなければなりません。数学、英語、哲学、神学、政治学、そして著者の教える社会学。そうした科目の学生数はおのずと多く、45~50名となります。

2学期目は45名~30名×9で結局370名ほどの学生を担当していました。課題のチェック、特にレポートを読むのに費やす時間は週数時間。土日返上です。

月一回の試験

毎月試験があります。中間と期末が大きな試験で、成績に与える影響は大ですが、その間に中間の前の試験と期末前に試験があります。試験問題の準備、採点、授業がない時間はそれらに充てることになります。

学校行事

大学ですが、高校のような行事、スポーツ大会や学部ごとの催し、学部が担当するウィーク等もあり、準備に追われます。特にスポーツ大会。何故かいずれかのスポーツのコーチにならねばならず、体育教員ではないもののアスリートを探し、その学生を指導したり、特訓したりしなければなりません。なので、ある種、経験がある種目のコーチになることが前提です。いざ、優勝を目指して特訓です。

※著者はテニスのサブコーチになりました。高校の体育で習ったからなんですが、ちょうどデング熱で死にそうになり、結局コーチとしての役割を果たせず仕舞いでした。

薄給?

教員職は、給与の面では他の職業より恵まれてると思いますが、それでもこの給与では、子どもを自分が働いている大学に通わせることは難しいという話を聞きます。真意のほどはわかりませんが、これが事実なら皮肉としか言いようがありません。

ちなみに給与はランクでことなります。ランクは20段階~ほどで、ノーランクで働きはじめ、2学期目に評価を元にしたランキングがなされます。

ただ、修士号や博士号を持っている人は、いくつかランクをひとっ飛びすることができます。これが、給与に影響するのです。ただ、それでも日本円で月3万弱~6万弱です。勿論、そこから税金が引かれます。税金はかなり大きく、現地の教員であってもこれだけがんばってこれだけ?と思うことがあるとか。

なので、教員がバイトをすることもあります。オンラインで英語を教えたり。日本ではあり得ないと思われますが、そういうことを頻繁に耳にします。と言う著者も、バイトの機会があればします。※フリーランスで仕事を続けています。ファシリテーターとか、講演とか、通訳・翻訳とか(笑)



学生との面接

課題の質問を受け付けたり、授業の補習をしたり、と結構重要な時間です。ただ、学生の場合はこの時間を“成績面談”に利用する場合が多いです。成績の面談というのはつまり、どこをどうしたら著者の教えている教科の成績がよくなるか?ということ。

例えば、大学が定める比率は試験が60パーセント(中間前10、中間20、期末前10、期末試験20)、クラス評価40パーセント(小試験、課題、グループ・個人発表等)で評価されます。ということで、パーセンテージから、ある種どこを頑張れば成績が上がるという予想も立てられたり、私の科目を落第せずにすむということにもなります。いやはやです。なので、成績を奨学金の申請に使う学生+落第したら困る学生が学期末に教員の元に押しかけます。内心学期末はめっちゃ忙しいのに・・・って思うのですが、仕方ない。

生徒から苦情・要求

成績への不満。科目を落とした場合、成績の付け方にいちゃもんをつけてくる場合もあります(←教師の視線で言うと、こんな感じ)。そうなると大変。特に学生が正式な文書を送ってきた場合は、詳細を記した文書を返さなければいけません。また保護者を連れてきて、直談判したり・・・事情もわかるもののかなり時間も食われ、エネルギーも消耗し大変です。
多くの場合は保護者が学生よりも多弁になる場合が多く、保護者の必死さが痛い。学生だけで来ても目の前で泣かれたりもします。泣かれても合格点はあげられないのだから、泣くほど頑張ってほしいというのが本音。つ、つらい。

職員室

アテネオ大学ナガ校の職員室
アテネオ大学ナガ校の職員室

職員の小部屋はありません。小中高校の職員室のような感じです。皆一緒。
特に著者の席はお話好きな人が近く、しかも爆音トーク(笑)でした。
誰かが誕生日であれば、ケーキ、食事持ちこみワイワイとします。結構楽しかったりもします。←フィリピンでは、誕生日の人間が奢ります。誰かが物品販売に来たりと兎に角集中力が鍛えられます(笑)。ここで、学生とも面談したりします。

手抜き?それとも効率化?

上記の通り、まじめに教員をしているとかなり忙しくなるため、ベテラン教員によってはかなり“効率化”していたりします。

まず、試験の形式。エッセーではなく選択式。課題は、目を通さずチェックしたふり(汗)。クイズ等は学生にチェックさせる。面談の時間はアポイントメントなしでは受け付けない、職員室に待機しないなど。

著者は全てにおいて逆をしており、これじゃいくら時間があっても足りないよなぁと思うこともしばしばでしたが、流石に生徒が忙しい時間の中書いて提出したレポートをいい加減に取り扱うこともできないため、しくしくと読むのです。(←面白いレポートも勿論あるので、実は時間は食うのですが、楽しかったりもします。)

評価

こんなに忙しくしながら、学期毎に3者評価されます。学生・教員・学部長。生徒はマークシート形式。教員は10ページほどに渡る評価表で、お互い評価もします。それ故、他の教員の授業に出席しなければいけなかったりします。

評価のあと、お互いの評価について話し合う時間を持たないといけません。その場で一度、同僚の教員から学生の回答に対するリアクションが薄いと言われました。著者を評価したその教員「とってもよくできたわ~」と大したことない回答(←申し訳ないが、アカデミックな意味で)に大げさなリアクションでこちらが恥ずかしくなったのですが、そういうのを求められているのかと・・・少々げんなりしたのを覚えています。いやはや・・・文化の違いというか、なんというか。。
この評価がランクにも給与にも響きます。そして、教員がいい加減な授業をしない歯止めになるわけです。

研究のための時間

大学の教員である以上、研究したいところ。しかし、こんなスケジュールでいつやるのか・・・土日です。ただ土日も出来ないこともあるのでなんともです。2学期目は学会にも論文(らしきもの)を発表し、学内のイベントでも講演し、バイトもしました。

けど、旦那が不在(オランダ在住)現在子どもがいないから出来たこと。これが、子持ちで家事などをやって時間制限がある場合はかなり難しいかも。ベテラン教員の使う“効率的”な方法を用いなければ!無理なのか、自問してしまいました?

兎に角、経験して言えることは、時間が足りない。特に「よき先生」であろうとすれば、そうなります。書くほどに教員していていいことあるの?とつっこまれそうですが、続ける理由はあります。

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