[ニュース] フィリピン、戒厳令の5カ月延長

5月下旬に発生した、ミンダナオ島マラウィ市の事件を受けて、大統領は権限を用いて戒厳令を発令し、多くの議論を引き起こしたことは記憶に新しいかと思います。この戒厳令は、憲法で60日間のみの期間限定ですが、7月22日、国会議員の投票によって、ミンダナオ全域に敷かれた戒厳令が今年12月31日まで延長されることになりました。

賛成票を投じた議員

賛成票を投じたアベリャ議員はその理由として、「延長の主な目的は、軍隊が戒厳令の終了などの期限に邪魔されることなく、オペレーションを継続し、マラウィの解放とその回復にもっと焦点を当てることにある」としました。

賛成票を投じた議員たちは、戒厳令の延長は政府による脅威に対する積極的な行動であるとし、またミンダナオの状況に関する7ページの報告書には、ミンダナオ全域の状況については、早急に対応する必要があると判断したと発言しています。

パッキャオ議員ー民主主義を覆す発言に「?」
大統領のサポーターであるパッキャオ議員は、賛成票を投じた理由に対して「政府がその力を行使し、人々を規律に従わせる好機である」と発言しまた、彼は聖書のローマの信徒への手紙-13を引用し「聖書では、すべての人は、上に立つ権威に従うべきである。なぜなら、神によらない権威はなく、おおよそ存在している権威は、すべて神によって立てられたものだからである。したがって、権威に逆らう者は、神の定めにそむく者である。そむく者は、自分の身にさばきを招くことになる」と、大統領の決定の絶対さを強調しました。

自らの人気を利用して、大統領の決定を支持させようと国民に働きかけています。彼の発言は、中世の王権神授説のよう。ー国王は神から権力を与えられており、国王にそむく人は国王に権力を与えた神にもそむくことになる。神にそむかぬために、国王(ここでは大統領)に従いなさいー民主主義を根底から覆すような様相です。恐らく、パッキャオ議員は自らの発言が意味することの深い意味をわかっていないと思います。

反対票を投じた議員

反対票を投じた議員は「戒厳令は、マラウィ市のテロ掃討にたいして何ら戦略的な貢献を成さない」とし、マラウィ市の状況は緊急に対応しなければならない問題として認識し、問題への早急な対処がいそがれることを強調するものの、依然として「どのように戒厳令がこの脅威の対処に有効であるのかがわからない」、「適時性や現場レベルでの必要性を理由とすることはばかげている!」とコメント。

ケソン市選出のクリストファー・ベルモンテ(Christopher Belmonte)議員は「最も特別な条件下にのみ確保された軍事ルールを正常化してしまう」と指摘。「権威主義を正常化するという危険な前例を設定するかもしれない。(厳戒令の延長は)、私たちが守ること約束した(民主主義の)制度を破壊することにもなりかねない。 できるだけ早く平和に焦点を当てるべきです。」と加えました。

反対票を投じた議員たちの疑問はもっともですが、その票はわずか14票。

では、いつまで戒厳令が続くのか?

今回の決定では2017年12月31日までと投票により決まりましたが、1987年フィリピン憲法では、最初はフィリピン全土あるいは部分であるか等のその範囲を問わず、60日間のみ。しかし、のちの延長に関しては、議員によって定められ、憲法にその期間の定めはありません。

同憲法の7条、18項に
Upon the initiative of the President, the Congress may in the same manner, extend such proclamation or suspension for a period to be determined by the Congress if the invasion or rebellion shall persist and public safety requires it.
大統領のイニシアチブにおいて、議会は、侵略または反乱が継続され、公共の安全がそれを要求する場合において、定める期間においてのみそのような宣言を延長または中止することができる。


誰が賛成したのか?誰が反対したのか?

下院の245名の議員が戒厳令賛成、わずか14名の議員が反対票を投じました。一方、上院では16票が賛成、4票が反対。各メディアはこぞって、議員がどちらに投票したのかを発表しました。票を投じた議員が、何に対して決定を下したのか、重要です。特に今回は民意の分かれる、戒厳令に関する決定。

この票をみて、自分の地域で選出された議員を探します。例えば、旦那の出身地、南カマリネス州選出の議員、ビリア・フェルテ議員。彼は、厳戒令に賛成票を投じています。ちなみに、フェルテ議員は典型的なトラポと言われる議員。トラポとは伝統的な政治家(トラディショナル・ポリティシャン)。一族で政治を牛耳り、汚職、政治の私物化等ネガティブなイメージのあるトラポは、権力の温存のため尖ったことはしません。皆が賛成することには賛成します。

ウェブサイトに公開された、議員の投票用紙の一部。
これで、誰が賛成し誰が反対したのかが一目瞭然。
ABS-CBNニュースより

フィリピンの政治システムのおさらい
フィリピンは、上院と下院に分かれています。下院は、代議院(Kapulungan Mga Kinatawan、英:House of Representatives)ともいわれ単純小選挙区制と厳正拘束名簿式比例代表制によって選出され、任期は3年。上院は元老院(Senado、英:Senate)と呼ばれ、定数の24名は全国区1区で、完全連記制、3年ごとに半数が改選され 任期は6年。

これからどうなる?

上記の通り、12月31日までを一区切りとした厳戒令は延長の可能性を残し、更に全国区への拡大という懸念は払しょくできない。もし、再度の延長への投票となった場合は議員サイドからの反対票はあまり期待できない。

フィリピン民主政治の補完機能として残されている市民社会からの反対の声は大きくなるだろうが、それは単純にプロ・ドゥテルテ、アンチ・ドゥテルテという形式で現れるにすぎないであろう。

言うまでもないが、重要なことは「戒厳令」が問題の解決にどれほど有効であるのかの議論を深めること。有効と認められた場合でも、過去の歴史的教訓から様々なシナリオを想定し、最悪の事態を防ぐことが大切。

ドゥテルテ側であれば、ドゥテルテの決定に、反ドゥテルテなら、反ドゥテルテ側の決定に傾くこととなる。大統領個人をサポートしなくても、大統領の政策を支援することはできるし、逆もまた然り。政治家も一般市民もこの点を忘れるべきではないと思った次第です。

関連ブログ
マラウィ市のIS(イスラミック・ステート)、そして戒厳令のミンダナオ島


参照ウェブサイト
http://newsinfo.inquirer.net/916132/majority-of-legislators-vote-to-extend-martial-law-in-mindanao#ixzz4ndsaHGLd

Congress grants Mindanao martial law extension until December
http://news.abs-cbn.com/news/07/22/17/congress-grants-mindanao-martial-law-extension-until-december

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