誘拐はおいしいビジネス!-ミンダナオ島ザンボアンガ島での誘拐事件

今週リリースされた、ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル、シリーズ7の舞台はミンダナオ島ザンボアンガ。今回はマニラでお仕事をしている土屋さんが、ゴルゴ13の忠告を聞かず、仕事で行ったミンダナオ島ザンボアンガで武装グループに誘拐され、ゴルゴ13によって秘密裏に救い出されるというお話。

ザンボアンガ、フィリピン南部ミンダナオ島の西、マレーシア、インドネシアに面する半島の先端。外務省の海外安全のウェブサイトでは、4段階のレベルのうちレベル3の分類(渡航の中止)。ここでの誘拐事件は、外国人・地元民ともに多い地域。外国人だけではないのかと驚かれるかもしれないが、地元の小金持ちの方がターゲットとして成立しやすいのです。

フィリピン人学生の誘拐事件

著者が以前勤めていた大学は、このザンボアンガに分校があります。2008年にその大学の看護専攻の生徒が誘拐されてしまったことがあります。もちろん身代金目的です。身代金は日本円にして1千万円ほどだったと聞きます。一般的なフィリピン人は月の給料は日本円にして20,000~40,000円の間、とりわけ地方都市なのでそれほど高くはありません。(参考:ブログ「フィリピンって本当に安いの?フィリピンの物価感覚」)

ただ、誘拐された学生のご両親は海外出稼ぎ労働者。それを知っている誘拐犯が故の要求額。海外出稼ぎ労働者と言えども、それほどお金を持っているわけではありません。学校側が仲介者として交渉し、最終的には身代金額は200万円ほどに下がったと聞きました。身代金の支払い後、生徒は無事に帰宅しました。

なぜ捕まらない?

しかし、これほど誘拐事件が多いこの地域。なぜ、誘拐組織は捕まらないのか?それにはいくつかの理由があります。地理的要因、警察力・司法の弱さ、そして一つの大きな理由はその誘拐の仕組みです。

誘拐に関わる人たちは、普段は一般の仕事を営んでいる場合もあると言われます。幾分かの分け前に預かれることを約束され、犯罪に加担します。誘拐事件がザンボアンガで起こったあと、犯人グループは誘拐された学生を船着き場まで連れて行き、船に乗せ小島に向けて移動します。船を操縦する人は、最終目的地を知らぬまま船である地点まで行き、そして人質と犯人は船をまた乗り換えます。そして最終的には人質を「家庭」に預けます。
そのため、警察は人質を乗せた船を途中までしか追うことができなくなります。

人質となった学生は「高い、ご飯付きの宿」に「ホームスティした」と関係者に言ったそうです!彼の場合、人質としての扱いは悪くなく、”滞在中”の身の危険は感じなかったのだとか。この学生は最終的に開放されましたが、人質が殺害されるケースもあります。

フィリピン国内では話題になったニュースでしたが、同地方での誘拐事件で大々的に放送されたのが、2014年のドイツ人男女の誘拐事件。身代金の要求額は日本円で六億円だったとか!(身代金誘拐ーフィリピン、ミンダナオ

日本人だから狙われる?

以前著者はYahoo質問箱で、日本人だと狙われるので、現地の衣類に身を包みなるべく目立たないようにし、信頼できる地元の人と行動を共にして、何か聞かれたら「中国人」とこたえたというやり取りを見たことがあります。

恐らくそれは、1986年に起こった「三井物産マニラ支店長誘拐事」の影響も少なからずあるのではないかと思います。若王子支店長はマニラ郊外のゴルフ場の帰り、フィリピン共産党の軍事組織、新人民軍(NPA)のメンバーに誘拐され、のちに高額な身代金を支払い開放されました。ちなみに手塚治の未完の作品「グリンゴ」の主人公が巻き込まれる誘拐事件は、この誘拐事件がモデルになっているといわれます。

目立たないようにというのは鉄則ですし、見知らぬ土地を一人で興味本位でうろうろしない!というのは基本中の基本。しかし、ザンボアンガに限りませんが、外国人はいかなる人種だろうと狙われやすいターゲットです。著者もミンダナオ島でプロジェクト・調査を行っていたときに、外国人を狙う「誘拐予告」情報を何度か聞きました。 

外国人はまず、地理を知らない、現地語をしゃべれないため、自分の置かれている状況を把握することができない。「ちょっと、おかしい」という感覚が、現地の人たちとはことなります。そして、衣類や動き(話をしなくても)で外国人だと分かってしまいます。

ちなみに中国人であれば、誘拐を免れることができるのかというと話はそれほど簡単ではありません。もちろん、ミンダナオ西部にもかなり中国にルーツを持つ人々がかなりおり、私たちと外見は似ています。しかし、中国系ビジネスマンを狙った誘拐グループからの脅迫も誘拐未遂もあります。


身代金誘拐はビックビジネス

上記の例は、身代金目的の誘拐です。まさに、ビジネスとして成立しています。大金をせしめた誘拐犯は、関係者に分け前を分配します。組織として資金源として身代金を使います。

また、身代金要求のほか、政治的声明を発表する組織もあります。そうした犯罪組織・武装集団、あるいはテロリストとは絶対「交渉しない!」と政府は声明をだしますが、人質が解放された場合は、大金が背後で動いたと見て間違いないと思っています。誘拐された人がどのような人であるのかにもよりますが、特に「国益」に絡んで派遣された人、あるいは人道支援組織の人間が誘拐された場合、それを助けないと国として後ろ指を指されます。

こうして身代金誘拐は大きなビジネスチャンスとなるため、組織としては資金調達の手段としてやめられません。そうなると、人道支援組織などはそうした地域での仕事が難しくなり、手を引かないといけなくなります。そして進む貧困、そこで影響力を行使する武装集団。まったく皮肉な図式です。

安易な解決策はありませんが、そうした地域には興味本位に個人として赴かないことはもちろん、海外に出たら(そうした退避勧告地域でなくても)常に危険があるということを心に留めておく必要があり、常に最新の情報を得る必要あることは言うまでもありません。

また、近頃はSNSなどで行き先をアップデートしている人も多いですが、上記のゴルゴ13シリーズでも指摘されていたように、行き先はオープンにすべきではないでしょう。デューク東郷氏がコミックでアドバイスするように①目立たない、②行動を予知されない、③用心をおこたらない・・・Twitterなどで「これから、ミンダナオー♪」なんて言いたい気持ちもわかりますが、そうした「自由の代償」は自らが払うことになるでしょう。


ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル
デューク東郷氏のアドバイス



ブログ「フィリピン海外就労者(OFW)の送金にまつわる問題


http://www.anzen.mofa.go.jp/anzen_info/pdf/episode7.pdf


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