「平和」を達成するとはどういうことなのか。この問いへの部分的な回答を得られるのが、世界平和度指数(Global Peace Index 以下GPI)ではないでしょうか。
2011年10月、ミンダナオで行われたPeace Villageでの写真 photo taken by Noriko Hashimoto |
プログラムは、簡単な挨拶とホスト団体の紹介に始まり、GPIの狙いと2016年度版のサマリーと質疑応答で、とても興味深く、示唆にとんだ1時間半でした。
GPIとは
GPIは、質的・量的な23項目のデータを元にして、世界163か国(2016年度版)の平和度を分析し、
指標化しました。オーストラリアの企業家、スティーブ・キレリア氏が発案、イギリスの経済平和研究所(Institute for Economics and Peace、以下IEP )が考案し、内外の専門家たちと共に作り上げました。国内外の紛争、社会的安全、軍事の3つに依拠したデータセットは世界人口の99.7パーセントをカバーしています。毎年カバーされる国の数は若干異なっていますが、10周年目を迎える今年度は、パレスチナが含まれています。(人口が100万以下、あるいは国土が極端に狭い国は指標に含まれていません)
23の指標の一例として、対外戦、内戦の数、対外戦による推定死者数、近隣国との関係、他の市民に対する不信感の程度、殺人事件の数などです。
GPI2016年版サマリー
世界の動向
多くの国に平和が見られるものの、GPIランク最下位から20カ国は継続的にそのランクが下降し、不平等が起こっている。テロの脅威は歴代の中で高くなり、過去25年間で紛争による死者数、また過去60年間の中で国内外の難民数はこれまでになく上昇しているとのことでした。6千万人の難民数はフランスの人口と同じぐらい。テロについては、全体の75パーセントが5か国(イラク、アフガニスタン、ナイジェリア、パキスタン、シリア)で起こっています。(西欧諸国で起こったテロは、大々的に報道され、私たちの記憶に留まることが多いのですが、上記にあげた5カ国の住人たちが日常的にテロの危険にさらされており、テロが起こっても“ニュース”とはならない現状があります。)
指標上昇と下降
サマリーと10年間のデータの蓄積から、世界の平和度が減少しています。昨年のデータに焦点を当てると、最も平和と言われる5か国(アイスランド、デンマーク、オーストリア、ニュージランド、ポルトガル)と最も平和から遠い国5か国(シリア、南スーダン、イラク、アフガニスタン、ソマリア)とのギャップは開きつつあります。
パナマ(24ランク上昇、2016年は49ランク)、タイ(9ランク上昇、125)、スリランカ(18ランク上昇、97)、南アフリカ(7ランク上昇、126)、モーリタニア(8ランク上昇、123)が前年比で向上し、イエメン(9ランク下降、158ランク)、ウクライナ(4ランク、156)、トルコ(7ランク、145)、リビア(3ランク、154)、バーレーン(23ランク、132)が大きくそのスコアを落としました。
パナマの劇的上昇の理由は、暴力的デモ発生の可能性の減少、政治的安定性が認められたこと、前年比でGDPに占める軍事費が減少したことで、軍事に関わるポイントが向上したことが理由となりました。
タイは、近隣国とりわけカンボジアとの関係性の改善、暴力的デモ発生可能性の減少、暴力的犯罪、人口10万あたりの犯罪者の収監率の減少が理由に挙げられています。
一方、劇的な減少が見られたイエメンは、サウジアラビアの率いる連合が現在も進行中の地域紛争に介入、悪化。アラブ連合による空爆、地上作戦、進行中の国内紛争も複雑に絡まり、人道危機に陥ってしまいました。その結果、数多くの難民・避難民が発生。また、暴力的デモ発生の可能性、犯罪、政治的テロに関する指標が減少しました。
アジア地域のGPIは?
GPIによるとアジア・太平洋地域はヨーロッパ、北米に次いで2番目に平和な地域です。インドネシア、東ティモール、ミャンマーと上述したタイは前年比、ポイントが向上しました。一方、南シナ海を巡っての緊張は依然として高いままで、そこに関わるフィリピン、ベトナム、中国のランクはそれを反映しています。
日本のGPIは全体で9番目に高く、アジア・太平洋地域ではニュージーランドに次いで2番目です。
暴力のコスト
世界のGDPの13.3パーセントで、その額は13.6兆ドルで人口に対して1日5ドルが費やされていることなります。内訳は、国内の治安確保、紛争による損失、軍事、犯罪・暴力による損失。(警察の人員の減少、軍事費の減少がイコールで平和ではないものの、GPIの指標を向上させることで(近隣諸国との緊張関係を軍事によらぬ方法で解決していく、国内の政治を安定させるなど。)それらに掛かるコストを減少させる、あるいは減少とはいかないまでも一定の割合で安定させることが出来るのではないでしょうか。)
SDGs(持続可能な開発目標)との関わり
17あるゴールの16番目が平和と公正の実現(持続可能な開発のための平和で包括的な社会の促進、すべての人々への司法へのアクセス提供、およびあらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包括的な制度の構築を図る)がGPIに関わってきます。既に現存するデータでその向上を測れるものの、各国のデータ収集の性能を上げていくことが期待されています。
積極的平和を測る
指標による可視化を通じて、実務者が政策などに盛り込むことを期待しますが、GPIの項目の1つ、軍事費を削減、あるいは犯罪率を減少させることで「平和」が訪れるというわけではありません。我々がどこに向かうべきなのかをしましたのが、「積極的平和」の指標です。
「積極的平和」は平和学者ヨハン・ガルトゥング博士が提唱した概念で、、飢餓や抑圧、差別などの「構造的暴力」が克服された社会的正義としての状態を指しています*。GPIが柱とする積極的平和の指標は以下の8つ。うまく機能している政府、資源の平等な配分、情報の自由な流れ、近隣諸国との良好な関係、高水準の人的資源、他者の権利の承認、低い汚職率、健全なビジネス環境。
実際の暴力の不在を「消極的平和」と言い、人々が安心して暮らせる必要要件だと思いますが、積極的平和の指標を注意深く見ていく必要あります。
※第二次安倍政権の言う「積極的平和」とは異なります。
質疑応答
会場には、研究者、NGO、大学院生、ジャーナリストがおり、サマリーを元に質疑応答の時間が持たれました。平和を「測ること」に対する抵抗は会場に訪れた人たちにはないものの、人それぞれ指標に含めるべきものや、既存の概念やフレームワークとどのようにつなげるのか、またデータの持つ意味とr-カルとのギャップはどういうものかということを焦点に質問があがりました。
続く>>
ハーグのThe Hague Institute for Global Justiceの外観 |
※The Hague Institute for Global Justiceは、ハーグの平和宮近くにある研究機関で、紛争予防、法の支配、グローバル・ガバナンスという3つのテーマを中心的に政策立案に関わる研究を行っています。研究の他、フォーラムの開催、トレーニング・ワークショップも開催しており、研究者、ジャーナリスト、NGOのワーカーが参加しています。
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