ママサパノ事件―それでも和平への動きをやめるべきではない!―

先月125日、フィリピン南部のミンダナオ島マギンダナオ州ママサパノで、フィリピン国家警察(SAF:Special Action Force)とバンサモロイスラム自由戦士(BIFF: Bansamoro Islamic Freedom Fighters)とモロイスラム解放戦線(MILF: Moro Isramic Liberation Front)との間で銃撃戦が起こり、44人の警察官、18人のMILF戦闘員と5人の民間人が亡くなりました。

ミンダナオでの平和活動
219日、事件から一ヶ月が経過しようとする今をもってなお、フィリピン国内はその事件に関するニュースが報道されています。ニュースでは、事件が何故起こったのか、そして殉職した警察官家族にフォーカスされたものが多いのですが、それは事件の真相については今も調査中で、正式な発表はなされていないためであり、また和平交渉の最中で慎重に事を進めているためかとも思われます。

殉職した特殊部隊に対して・・・半旗
事件は、警察が指名手配中の大物を2名捉えるための作戦の際に起こった出来事。その指名手配されている人物の1人は、東南アジアの反政府組織ジャマイスラミーア(JI)の爆弾工作のエキスパート、マルワン(Marwan)ことズルキフリ・ビン・イール(Zulkifli bin Hir)容疑者とアブドゥール・バシット・ウスマン(Abdul Basit Usman)容疑者。ジャマイスラミーアはアメリカ国務省のテロリストグループに指定されています。

作戦によって上記指名手配中のマルワンは殺害されたことが後日のDNA67テストで判明しました。しかし、特殊部隊の隊員、市民を含め多大な犠牲を払いました。作戦のために同地域に入った警察の特殊部隊とMILFBIFFとの銃撃戦は11時間にも及びました。

部隊の多くは交戦中に殉職。わずかな数人のみ生き残ることができました。隊員の1人は、何時間にも及ぶ交戦の末銃の弾が切れ、後は水草に身をひそめて助かりました。

虐殺ではない!
事件当初、フィリピン国内ではこの事件を「虐殺」と理解している人も少なくなく、実際ミンダナオに関する講演会などでは、ママサパノの「虐殺」という言葉を使っている人もいました。のちにyoutubeに、武装集団の戦闘員が警察官の息の根を止めるべく、必要以上に至近距離で銃を使用している映像が流出し、その残虐性が印象付けられ、視聴者は恐怖と共に憤りを感じたことと思います。私も映像を観ましたが、これは本当にひどい。そして、それ故に「虐殺」と言いたい気持ちも分かります。
しかし、これは虐殺ではない。もし殺害された人たちが一般市民で非武装であれば虐殺でしょうが、警察の特殊部隊は作戦のため武器を所持していました。

講演・ブログ等公の場で話す時、私自身も言葉を気をつけて使わねばと思うところです。

フィリピンは危険か?
この事件の故に、旅行をキャンセルする観光客がいるとニュースで読みました。記事で取り上げられた一件はパナイ島に観光予定の観光客とその旅行を手配するオーストラリアの旅行会社の話でした。観光客のお目当ては、この時期に開催されるフェスティバル。パナイ島はゆったりと過ごせ、危険からは遠い土地ながらも、事件の報道から不安に思いキャンセルに至ったとのこと。時にtwitterでも今回の事件があったからフィリピンの渡航をいたずらに怖がるつぶやきをしばしばみるのですが、今回の事件に関連した危機よりもフィリピンで外国人を対象に起こり得る犯罪に気を付けた方がよいのではと思います。

フィリピン、日本に比べたら危ないことは勿論。外国人誘拐事件が起こる(フィリピン人だってお金目当てに誘拐されています)地域等を避ければ犯罪(スリ、ひったくり、詐欺等)に気をつければよいということ。日本に比べたらどこの国も危ないのです。


和平交渉は暗礁に乗り上げたのか?
事件の真相は究明中、しかし和平への動きは継続して続行中です。ただ、一方で今回の一件で和平交渉でカギとなる、国家の中の準国家を作る法案、バンサモロ基本法をサポートする人たちの数が少なくなるのではと心配しています。全国紙PhilStarがMILFとの和平交渉を今後支持するかを問う投票を行っていますが、多数はNO, つまり支持しないと投票しています。連日のメディアの報道姿勢から、そうなる結果は見えていましたが、投票の途中結果に少々残念な思いがします。

NOという理由は、いくつかあると思いますが、停戦が保たれていると思われる和平交渉のさ中、MILF戦闘員がこの戦闘行為に参加したことで、内部の統率が取れていない団体と交渉することに不安を示していること。また、連日の報道が上記のごとく遺族に焦点をあてたものが多く、遺族に同情的になること=MILFに対しての憎悪が増長したように思われます。

ここビコール地方でも大学などの教育機関で引き続きミンダナオ和平そして今回の事件に関する議論が続いています。否定的な意見も聞きますが、それでもミンダナオ和平を進めていくべきであるという声を聞きます。

私は?

勿論YES―和平交渉支持を表明します。

なぜ支持するのか
紛争に関わる人的・経済的コストという側面だけではなく、そこにある人々の暮らしを僅かながらも知ってのことです。過去ミンダナオ島でプロジェクトに携わり、現地の人たちが過去の武力衝突で住みかを追われ避難民として生活、紛争で家族失った経験を持ち、どれほど平和を望んでいるのかを聞き、また彼らと共に歩んでいるNGOなどとも関わりからミンダナオの平和がどれほどミンダナオ島民にとって、またフィリピンにとって重要であるか知ったためです。

平和と日本の文脈で聞くと、政治思想掛かったもの?と理解されやすい+具体性がないものと思われますが、ミンダナオのような土地での平和は、人々が暴力の心配なく、生活の基盤を持ち安心して生活状況だと説明するのが分かりやすいかもしれません。人間としての基本的衣食住のニーズが著しく侵されている状況から脱するべく

そして事件の真相を究明し、正義を求める動きも大切ながら、同時に和平への歩みも止めず、和平交渉がよい実りをもたらすようにと祈る気持ちです。









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