新型コロナウイルス渦中のフィリピンの貧困者の生活の難しさを考えた

フィリピンの近年の経済的発展は目覚ましいものがあるが、それでも貧困層は人口の21.9%(2018年、世界銀行)がいる。それらの人々が今回の新型コロナウイルスによってどれぐらいの影響を受けているのだろうか?ということが気になりました。
マニラの渋滞
マニラの渋滞、コミュニティー隔離措置が取られるいまではこの光景は見られないようです。

フィリピン政府の新型コロナに関する措置

1月30日に1例目(武漢からの中国人旅行者)が報告されてから、2月2日には2番めの症例が確認されました。患者は、最初の症例の中国人夫でした。 2月5日に、3人目も中国国籍者からの感染が確認されました。

3月5日、フィリピンで最初のフィリピン人の感染が報告されました。3月7日には、妻から夫への感染が報告されて後、着実に増加し、本日3月21日では約300名の感染が報告されました。

フィリピン外務省は3月19日夜、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、すべての外国人に対するビザの発給の一時停止を発表しました。ビザ免除措置も22日から停止され、発給済みのビザも外国政府や国際機関の職員などを除き、全て無効になります。そのため、現在フィリピン滞在中の外国人は、利用可能なフライトで帰国あるいは、国外退去しているようです。

国民に対しては、コミュニティー隔離措置が講じられ、マニラ首都圏において3月15日から4月14日まで午後8時から午前5時までの夜間、外出禁止とすることを発表されました。4月16日から「強化されたコミュニティー隔離措置(Enhanced Community Quarantine)」が講じられ、ルソン島全域に隔離措置がとられました。

自宅を離れる場合、利用可能施設、公共交通機関、民間企業の従業員、フィリピン内外への移動等についての義務・許可事項および禁止事項を発表し、国民に周知しました。これにより、多くのフィリピン国民にとって大切な、聖週間までは、移動に大幅な制限がかかります。


最も影響を受ける非正規雇用者

フィリピンでは、約37%が非正規雇用者で、ショッピングモールの店員、警備員等は、ショッピングモール等の商用施設が閉鎖されることで、給与がなくなります。また、仮に雇用先が開店しており、仕事が続いていたとしても、彼らの雇用先は、自宅から遠いこともただあり、コミュニティ隔離の中の移動は大きな困難を伴います。

※非正規雇用者の日給は、マニラにおける法令最低賃金(537ペソ)よりも低いこともただあり、雇用が6か月も延長されないこともただある、不安定な雇用です。そのため、貯金などする余裕はありません。

更に、企業にも雇われていないジプニーやトライシクルの運転手、路上の物売りなども、物流や人の流れが滞ることで、その収入に影響がでるでしょう。更に非熟練労働者と言われる日銭を稼ぐこれらの人々は、収入がまったくないことは食い扶持がなくなることを意味します。

貧困層ができるソーシャル・ディスタンシング(社会的隔離)

貧困層はどうやって「ソーシャル・ディスタンシング」をするのでしょうか。貧困層の多くに、地方から仕事を求め、あるいは戦争や災害を逃れて移動してきた人が含まれています。それらの人により構成される首都圏マニラの人口密度は今や世界一、42,857人/平方キロです。

特に、貧困者の多くは、スラムやスクウォッターで生活しており、家も密集している地域です。家屋も1,2部屋のみトイレやキッチンを共有し、衛生状況がよくない上に、水へのアクセスが困難な地域もただあります。また、狭い地域に建てられた家は窓もなく、換気が極めて悪く、昼間でも電気が必要な暗さであることもただあります。そうした極めて悪い住環境を数世帯で共有するということもよく見られる光景です。

彼らにできる最低限のソーシャル・ディスタンシングとは、ハグやチークキスをしないこと、またマノポ(年長者への尊敬を示す挨拶で、 相手(年長者)の手をとり、自分の額につける行為)等を行わないことです。果たして、これらのみで感染を防げるのでしょうか?

実際、家族のメンバーの一人が経過観察となった場合、そしてそのメンバーが万が一感染していた場合は、家族全員が感染ということになります。

貧困層への医療

日本では、PCR検査で陽性だった場合、感染症法の規定に基づき院費などが公費で支払われることが厚生労働省のウェブサイトに記載されていました。フィリピンではどうなのでしょうか。

ある情報ソースでは、検査費用は3,000ペソ〜5,000ペソ(約65,000円から10,000円とも言われています。高価な検査故、フィリピン大学は比較的安価な検査キット、費用は1,500ペソ(約3,000円)が開発される一方、韓国から10万個の検査用キットが寄付されるようです。検査は無料と言われていますが、現時点で治療費、隔離にかかる費用の負担は自己負担であるのか、無料であるのかは、明言されていません。

自己負担だった場合の費用の試算

治療、隔離にはそれなりの費用がかかります。貧困層にとっては「ひと財産」必要となります。14日間の病院での隔離にかかる費用は約28,000ペソ(約31,000円)、入院中の検査には10,000ペソ(約21,000円)、重症化した場合の治療にも更に費用がかかります。私立の保険に加入している人でも保険がパンデミックに対応していない等の問題もあります。

まず、費用負担だけを見ると、貧困層はとても払える額ではありません。しかし、もし感染者がそのままコミュニティに滞在し続けたら、コミュニティ内での感染が広がるため、そのまま放おってもおけないでしょう。

受け入れ病院にも限界がある

費用だけではなく、患者を受け入れている病院は、すでに呼吸器も十分な数を所有していないため、重篤化した状態で搬送されても、病院によっては、対応が難しくなってくる可能性も今後でてきます。
ローカルのテレビニュースに答える医師たちは、感染者数が増加したら、受け入れも難しくなることを示唆しています。

貧しきものが、最も影響を受ける

上記の通り、貧困層は、今回の新型コロナウィルスとそれに伴う措置で、経済的に大きな打撃を受け、近隣の住人が感染すれば、たちどころに自らも感染してしまうような住環境で生活し、万が一感染した場合でも、治療や隔離にかかる費用については、明言されていないため、不安な状況に置かれています。

とは言うものの、路上あるいはスラム、スクオッターなどで生活する子どもたちは、元気いっぱい路上で遊んでいる様子がニュース映像に映し出されていました。ローカルニュースのインタビューに答えるスラムの住人は、インタビューに、「(新型コロナウィスルは)コワいけど、家の中は暑いから仕方がない・・・」と答えていました。バハラナ(Bahala na/なんとかなる)としか、思いようがない。。。

フィリピンについて言及しましたが、おそらく、開発途上国と言われる他の国々も貧困層が直面する危機は、大きく変わらないと思います。構造的な問題故、明快な解決策はないものの、コミュニティの隔離が功を奏すること、貧困層を救済する措置を政府が効果的に講じることができることを願うばかりです。

追記
現地の友人がコミュニティ(バランガイ)のヘルスワーカーに確認した所、まず、感染が疑われた場合は家に隔離され、ヘルスセンタースタッフが毎日モニターし、1週間症状が続いたら、市に連絡し、病院に連れていってもらう。症状を観察したうえで検査を行う。その場合は検査費用、治療費、隔離代もすべて無料とのことで安心しました。しかし、個人で検査等に訪れて、それで陰性であった場合の費用は自分持ちだそうです。仕方がないですね。

関連ブログ

[ドキュメンタリー] フィリピン関係者必見?!のドキュメンタリーリスト
海外で病気に罹ったら何をしたらよいのか?フィリピンの医療ー海外旅行保険の利用の仕方、医療機関の設備・衛生、疾病予防

参照ウェブサイト

Philippines now denying visas to Wuhan tourists
https://www.philstar.com/headlines/2020/01/26/1987883/philippines-now-denying-visas-wuhan-tourists

Philippine government’s order to deport travelers from Wuhan: Was it too late?
https://www.interaksyon.com/politics-issues/2020/01/24/160692/coronavirus-wuhan-deportation-order-aklan-philippines/

https://business.inquirer.net/281269/ph-poverty-rate-seen-falling-below-20-starting-2020

Poverty Data: Philippines
https://www.adb.org/countries/philippines/poverty


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