[ドキュメンタリー] 引き裂かれた大地~グルジア(ジョージア)境界にロシアの影が~

2014年、世界がウクライナへのロシアの注目する中、ジョージアと南オセチアの境界でロシアの脅威がジワジワと迫っていました。ロシアはフェンス/有刺鉄線を設置し、実質の境界線をつくりました。境界線を国境として既成事実化していきました。それまで通っていた学校や病院、仕事場、そして親類の家へ行けなくなり、仕事場である畑が南オセチア側になってしまい、収穫・収入減となりました。

ジョージアと南オセチアの境界線で起こっていた出来事をジョージア側で暮らす市民の視点追ったNHK作のドキュメンタリー「引き裂かれた大地~グルジア境界にロシアの影が~」の紹介です。関係者必見です。
*放送当時は、現ジョージアはグルジアと呼ばれておりました。
国内難民の居住地域
国内難民の居住地域

実際何が起こっているか?

2013年1月、南オセチアの境界近くに生活するジョージア市民は、ロシア/南オセチアによって実際土地を収奪されてしまいます。突然の境界線の出現で、親族・近隣の住民と分断、耕作地の分断による耕作地の減少、それに伴う収入減、ロシア兵による身柄の拘束、いやがらせ、暴力など、ジョージア市民は生活における様々な困難に直面します。

ある男性は、ロシア兵が(ジョージアの領域内に)来て、境界線の向こう側に強制的に連れて行かれた末、拘留、南オセチアの刑務所に収監され、数日後2000ルーブルの保釈金で解放されます。このケースは、境界線に近い地域でロシア兵に捕えられたジョージア人からよく聞く話です。つまり、恒常的に起こっている問題です。ちなみに2000ルーブルは、農村地域に生活する人には高く、支払えないため、親族などからお金を工面することになります。

また、境界線周辺で生活することで、常にロシア兵の影におびえることになります。境界線周辺は、ロシア兵が駐在しており、住民たちを監視、脅します。中には、ロシア兵から暴行を受けるケースもあります。

ジョージア政府の立場

境界線の設置について、領土問題担当副大臣マリナ・サルクヴァゼ氏は「放牧中に境界線を越えてしまうケース」がある。しかし政府のスタンスは、「フェンス(境界線)の撤去の交渉はするが、位置を変える交渉はしない」。位置を変える交渉は、境界線の存在を認めてしまうことになるためです。そしてジョージア政府は「軍事的解決はしない・できない」。

境界線近くに住む村人

私は絶対またこの土地に住みます。見てください、この土地はこんなに豊かなんです。私の故郷なのです。
そう言い終えたあとに、静かに涙が頬を伝います。2008年に起こった紛争で家屋が破壊された老人。しかし、その後自らの力で再建し、平穏な生活に戻るところ、今度はロシア兵によって境界線の設置のため、立ち退きを強制されることになりました。



村を離れ、親族の家に移り住む人もいる中、村に残る人もいます。ロシア兵によって家屋を焼かれる、あるいは境界線によって分断されてしまった村人たちですが、「私はこの村で生まれ育ってきて年老いてきました。どこか行けと言われてもどこに行けばいいのですか?」彼らには行くあてはなく、そして「この土地は私のものです。私が出て言ったらだれがこの土地をだれが守るのですか?」残った土地の守り手として他の人を頼ることができません。また、田舎では所有する土地に故人を埋葬することもあり、両親の墓がフェンスで隔てられた先にあるばあい、先祖の墓参りすらかないません。

村人の権利を守るために

それらの村人の権利を守るために若手弁護士を束ねるNGO「ジョージア青年弁護士協会」が、村人を組織。ドバニ村の10家族を原告として、ロシア政府に対して奪われたもの土地や財産への返還を欧州人権裁判所に訴えました。欧州裁判所へは、境界線がつくられ、実際の被害があってから6カ月以内に訴えないといけないため、住民の声を短い期間で可能な限り集めないといけません。

ロシアを訴えるための手続き、そしてその壁は法的手続きと心理的問題です。まず、先祖代々の土地は国に登記されていないケースがほとんどです。正式な書類がなければ、訴えることはできません。しかし、村人は「村役場が所有を認めると言っている」といい、登録に対しては乗り気ではありません。

土地の登録は法務省で行います。そのために地方自治体から所有権の確認書を得て、その確認書に基づき法務省で所有地を登録をしなければなりません。また、土地の登録には、登録料が必要となります。村人は土地を奪取されて、そのうえ今まで問題にならなかった土地の権利を証明しなければならないこと、手間と費用に不満です。

しかし、登録が完了して初めて所有権を持つことができ、所有地を失ったことに対する賠償金をグルジア政府に要求でき、欧州人権裁判所に訴えて損害賠償を要求できます。裁判に勝訴した場合は、ジョージア政府よりもはるかに多額な賠償金を得られる可能性があること、ロシアは過去にチェチェンの同様の問題において賠償金を払っていることを弁護士が根気強く説明します。

問題を考える上での多角的な視点

境界線設置、そしてそれに至る問題の複雑さは、ドキュメンタリー中盤のトビリシ自由大学のディスカッションを通じて、ジョージア人の立場はオセチアの独立を承認しないものの、統一的ではないことがわかります。

グルジア人の考え方のみが大切なの。オセチアがグルジアの一部になりたいのかわからない。

アメリカも多民族国家だけど、アメリカという一つの国としてまとまっている。10万人のジョージア人が移住してもその土地をジョージア人に与えよとは、言えない。

仮にまとまった数のジョージア人がアメリカに生活して、数世紀経って、自分たちのアイデンティティを失わずアメリカ人になれなかったとわかったとき、アメリカから独立を求めるのは当然だと思う。

あなたの考えだと、南オセチアはもうジョージアの領土ではないと認めることになるのよ。あなたはあそこをロシアだと思っているの?

何をもって国家とするの?

もちろん、歴史。歴史を軽視したら。。。

歴史が国家の全てを決めるの?民族の帰属意識も大事なのでは?オセチア人は今ジョージア人としてのアイデンティティを持っているの?

EUや世界は独立を承認しないジョージアの立場を支持しているわ。もし立場を変えたら、EUへの加盟交渉もつぶれ、ジョージアはさらなる危機に陥るわ!

EUなどは、独立の承認等ではなくジョージアの立場を支持しているにすぎない・・・

学生たちの議論に熱がこもります。

解決策はあるのか?

2者択一ではない何か?

EU特命次官は、ジョージアがロシアによるか、ヨーロッパを中心とする西欧によるか、その2者択一の問題がいろんな問題を引き起こしていると指摘。

ジョージアの経済

2008年の紛争前、ロシアはジョージア産のワインの輸入を禁止し、ジョージア経済に大きな影響を与えました。

境界線近くに生活する男性は、境界線問題の解決策について、「ジョージア経済の立て直し」「オセチアに生活する人にロシアの国籍希望を募ったら、かなりの多くの人が希望したというニュースを見た。もし、ジョージアが魅力的ならば、人々は戻ってくる。」

ジョージア タペストリー
ジョージア 民俗学博物館展示

このドキュメンタリーそのものが境界線問題のヒントを与えるわけではありませんが、インタビューに協力した国民の声はそのままで、字幕となっているため、どのような声のトーンで話をしたのかが伝わります。また、地名などが日本語とジョージア語の表記となっており、ジョージア人の感情、思いに目線を合わせて作られたと感じられます。

2014年に製作されましたが、境界線を周辺地域の様子はドキュメンタリー制作時と大きな違いは見られないため、ジョージアのそれら地域、また国内に拡散する国内避難民の現状を知るうえではまとまった映像資料だと思います。

(実は、先日仕事関係でとある団体にお邪魔した時に、このドキュメンタリーに登場した女性と会いました。だいぶ前に見たドキュメンタリーだったため、その場で思いだせなかったのですが、ちょっとだけdéjà-vuしました。)

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